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ドイツ憲法裁判所の画期的な判決:世代を超えた正義を実現し、自由を守れ!

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年4月29日、ドイツ憲法裁判所は画期的な判決をくだした。2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目的とした2019年の法律を拡大するよう政府に命じ、この法律は将来の世代を確実に保護するのに十分ではないとしたのである。

 いわば、「世代を超えた正義」を実現するために、すなわち、将来を担う人々の基本的権利としての自由を守るために、いまを生きる者はもっと明確な立法措置を講じるべきであるというのだ。ここでは、この判決の内容を紹介しながら、それが世界全体におよぼす影響について論じてみたい。

15歳から24歳までの9人の気候変動活動家の訴え

ブランデンブルク門前で「いま行動しなければ。もう時間を無駄にするな」と書いたプラカードを掲げる少年=2019年9月20日、ベルリン

 この裁判では、世界の気温上昇を防ぐために2015年に採択、2016年に発効したパリ協定に基づいて、ドイツで2019年に制定された連邦気候変動法が争点となった。

 同法は、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で少なくとも55%削減することを義務化し、部門別の年間排出量によってこの期間中に適用可能な削減経路を定めている。450億ユーロ(600億ドル)の支出(いわゆる「二酸化炭素予算」)、二酸化炭素の排出量に応じた料金制度、飛行機代を高くするための税金など、さまざまな対策が盛り込まれていた。

 また、ドイツは欧州連合(EU)の他の国と同様に、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることをめざすとしている。だが、この法律は今後10年間でどのように温室効果ガスを減らすべきかを規定したものにすぎず、2031年から2050年までの間にどのように、どれくらいの削減に取り組むかについては2025年に決定されることになっていた。

 これに対して、気候変動への対策強化を求める活動家は、これでは、政府は問題を先送りし、その結果を背負わなければならない将来の世代の自由を危険にさらしているとした。気候変動対策を十分に重視していないために、未来の市民の基本的な権利を否定しているとして、政府を裁判に訴えたのである。

 この法律に異議を唱えていた9人の若い気候変動活動家は、15歳から24歳までの幅広い年齢層で構成されている。まさに、彼らは世代を超えた正義の実現を求めたのだ。

「将来の世代に対する責任」

 憲法裁判所が4月29日に発表した資料によると、立法者が連邦気候変動法の規定を導入する際、「気候変動のリスクから原告を保護する憲法上の義務に違反したこと」、あるいは、ドイツの憲法、ドイツ共和国基本法の「第20a条から生じる気候変動対策をとる義務を満たさなかったこと」を確認することはできないとしながらも、同裁判所の8人の裁判官は全員一致して、問題となっている同法の条項が「なかにはまだ幼い者もいる原告の自由を侵害している」としたのである。

 なお、第20a条では、「国家は、将来の世代に対する責任にも留意しつつ、憲法の枠内で、立法により、また、法と正義に従い、行政・司法上の措置により、生命と動物の自然の基盤を保護しなければならない」と定められている。

 さらに判決では、パリ協定の目標に沿った温室効果ガスの削減目標を達成するためには、「2030年以降も必要な削減を、これまで以上に迅速かつ緊急に達成する必要がある」として、「立法者は、基本的権利によって保証された自由を守るために、これらの大きな負担を軽減するための予防的措置を講じるべきであった」と指摘されている。

 そのうえで、「2031年以降の温室効果ガス排出量の削減経路の調整に関する法律上の規定は、必要な気候中立性への移行を時間内に達成するためには十分ではない。立法者は2022年12月31日までに、2030年以降の期間について温室効果ガス排出量の削減目標をどのように調整するかをより詳細に規定する条項を制定しなければならない」と、裁判所は命じたのである。

「急激な禁酒」を強いるな

 この判決が画期的なのは、将来世代の負担と基本的権利としての自由の問題を現在の視点から考える姿勢を示した点にある。「ある世代が二酸化炭素予算の大部分を消費し、比較的小さな削減努力を負担することは、後の世代に大幅な削減負担を負わせ、彼らの生活に包括的な自由の喪失をもたらすような場合には許されないことになる」というのだ。

 別の箇所では、「生命の自然な基盤を大切に扱い、これらの基盤を維持し続けたいと願う将来の世代が急激な禁酒を強いられないような状態にしておく必要性」が指摘され

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