未曽有の危機に陥った日本が総選挙で選択するものは……
2021年05月29日
新型コロナウイルスの感染に揺れ続ける日本は、この秋までに重大な選択を求められる。衆院議員の任期(4年)が10月21日には満了となるので、それまでには解散・総選挙がおこなわれるからだ。未曽有の危機に陥った日本は、この総選挙で何を選択するのか。政治制度や外交、経済政策を含めてシリーズ「2021政治決戦 何が問われるのか」で考察する。初回は、四半世紀前に実現した政治改革がめざした二大政党制が幻想で終わるのか、それとも復活するのか、その行方を探る。
衆院に小選挙区比例代表並立制を導入する政治改革関連法案が成立したのが1994年。非自民の細川護熙連立政権だった。リクルート事件などへの反省からカネのかかる政治を改め、政策本位の政治、政権交代可能な二大政党政治をめざすという触れ込みだった。1996年に小選挙区制による初の総選挙が実施され、2000年、03年、05年、09年、12年、14年、17年と重ねられてきた。
このうち09年は自民党から民主党(当時)へ、12年は民主党から自民党へと、それぞれ政権が交代した。政権交代が起きやすいと言われてきた小選挙区制の特色が表れたのである。
しかし、その後は第2次i以降の安倍晋三政権のもと、国政選挙では自民党(公明党との連立は継続)の圧勝が続いた。野党の民主党は民進党と改名したり、希望の党に吸収されたりして、混迷が続いた。「二大政党は幻想だった」「自公政権は揺るがない」という声が政界だけでなく、経済界や言論界からも聞かれるようになってきた。
しかし、コロナ危機への対応で安倍政権が迷走。健康問題も加わって安倍首相は退陣を余儀なくされた。20年9月に後継となった菅義偉首相は「たたき上げ」のイメージもあってか、当初は高い支持率を記録したが、効果的なコロナ対策を打ち出せず、経済の落ち込みも続いて、支持率は急落した。ちなみに、安倍氏が“抱きついて”パイプを築いた米国のトランプ大統領(共和党)は、民主党のバイデン氏に敗れた。米国では、二大政党制が機能していることが実証された。
一方、日本の野党陣営は、昨秋旗揚げした合同新党、立憲民主党を中心に結集し始めた。21年4月の衆参3選挙区の補選・再選挙では、立憲民主党候補2人と野党系候補が勝利、自民党は不戦敗を含めて全敗となった。野党が一本化すれば勝機があることが明確になった。自民対立憲民主という対立構図が見え始めてきた。
秋までには必ずある総選挙では、この構図がさらに明確になって、二大政党制が復活するのか、それとも自公優位体制は存続するのか。有権者の判断が大きな注目点となってきたのである。
現行の小選挙区比例代表並立制は1990年前後の政治改革論議の中で、政治学者の佐々木毅東大教授(のちに東大総長)らが主導して制度設計された。自民党の幹事長を務めた小沢一郎氏らの離党、新党結成など多くのドラマを経て、関連法案の成立にこぎつけた。
これは、衆院の選挙制度を中選挙区制から小選挙区中心の制度に改めることで、政権交代可能な二大政党政治をめざそうという改革だった。ただ、そこには多くの問題があったことも確かだ。
自民党には後援会を中心に幅広い支援組織がある。創価学会という強力な支援団体を持つ公明党が自民党と連立を組めば、組織力は圧倒的となる。かつての民主党、いまの立憲民主党は労組の組織力に期待するが、労組の集票力は弱まっており、自公勢力に対抗できる政治勢力はできないのではないか。
また、衆院は小選挙区制で二大政党が争うにしても、参院には複数を選ぶ選挙区がある。都道府県議、市区町村議の選挙は中選挙区や大選挙区も多い。このため、地方では自民、公明両党や保守系無所属議員が圧倒多数を占め、立憲民主、共産両党などの勢力は弱い。このように、二大政党制に向けたハードルはいくつも残されていた。
大阪を中心に台頭してきた日本維新の会も、小選挙区比例代表並立制の産物と言える。維新は「大阪ナショナリズム」ともいえる個別政策を掲げ、リーダーだった橋下徹氏や松井一郎氏は、安倍首相や菅官房長官との個人的関係を誇示して、政権に近い野党という立ち位置を取った。
小選挙区の定数は大阪府が19、隣の兵庫県が12、近畿全体の比例区定数は28という環境で、例えば2014年総選挙では41議席を獲得した。全国規模の政党でなくとも、国会のキャスティングボートを握るような勢力を確保できる。二大政党制とは相いれない動きが顕在化してきたのである。
小選挙区制を通じて、政策本位の議論が活発に行われる二大政党制を実現するという、制度の導入を進めた際の期待とは異なる動きも出てきた。
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