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矛盾深まる土地規制法案――数百万人の私権制限の恐れ。入管法に続き廃案しかない

与党が衆院採決強行した法案は立法事実なし。安保を口実に政府の恣意的運用許す

馬奈木厳太郎 弁護士

拡大東京・市谷の防衛省

1.国会・国民を軽視。重要法案をわずかな質疑で強行採決

 みなさんは、自宅や自分の会社などの状況について、密かに誰かから調べられることを想像したことはありますか? あるいは、周囲の人がそうした情報をみなさんの許しも得ないで誰かに教えることを想像したことはありますか?

 そんなジョージ・オーウェルが描いたビッグブラザー的な話、映画や小説のなかのことでしょって思ってはいませんか?

 それが近々現実のものになるかもしれません。そうした法案がいま国会(第204国会)で審議されています。

 法案の名前は、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」というすごく長いものです(法案の全文はこちらから確認することができます)。

「重要施設」周囲の土地建物を調査、利用中止勧告や罰則も

拡大土地規制法案とは
 この法案は、内閣総理大臣が、自衛隊や米軍、海上保安庁、原発など「重要施設」の周囲おおむね1km内や国境離島等内にある区域を「注視区域」に指定し、①区域内にある土地及び建物(「土地等」)の利用実態を調査する、②施設や離島の「機能」を阻害する行為の用に供したり、供する明らかなおそれがあると認められるときは、利用中止などの勧告を行ったり、罰則付きの命令(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金)を行えるようにする、③「注視区域」のうち「特別注視区域」とされた区域においては、土地等の売買などについて、当事者に事前の届出を罰則付き(6月以下の懲役又は100万円以下の罰金)で義務づけることなどが柱となっています。

 法案は、3月26日に閣議決定され国会に提出され、5月11日に衆議院において審議入りしました。法案は内閣委員会に付託されましたが、内閣委員会での審議は、同月19日に小此木八郎担当大臣の趣旨説明があったほか、同月21日と同月26日に各5時間、同月28日に2時間30分の質疑があった後、一部野党が継続審議を求めるなか、自民、公明両党が採決を強行し、委員長が職権で採決に踏み切り、自民、公明、維新、国民民主の賛成多数で可決されました。委員会質疑はわずかに12時間30分でした。6月1日には、衆議院本会議で採決され、やはり賛成多数で可決されました。6月4日には参議院に送付されます。

拡大土地規制法案を与党の強行採決により可決した衆院内閣委員会=2021年5月28日
 この法案をめぐっては、そもそも法整備を必要とする合理的な事情があるのか(立法事実)や、区域指定された土地等の所有者などにどのような調査をするのか、機能を阻害する行為とは何を指すのかなど、多くの点について各方面から懸念が示されていたところで、私も法案の問題点をいくつか指摘していました(論座4月26日付の拙稿「欠陥だらけの土地規制法案――政府の裁量濫用で市民活動制限の恐れ」)。

与党は参考人要求に応じず、パブコメもなし

 12時間30分という質疑時間は、こうした懸念も示されているなかでの審議としてはあまりにも短いものでした。野党は、参考人質疑や、他の関連する委員会との連合審査などを求めていましたが、与党はこうした求めに応じることはありませんでした。法案の提出にあたって、パブリックコメントのような形で一般から意見を聴取することもありませんでした。

拡大北朝鮮のミサイルに備え、迎撃の態勢を整えた当時のPAC3。後方は住宅街=2013年4月9日、神奈川県横須賀市の航空自衛隊武山分屯基地、朝日新聞社ヘリから
 政府の説明では、この法案は安全保障にかかわるものとされ、また法案が成立した際には、自衛隊や米軍基地、海上保安庁などの施設周辺の住民に影響が出ることからしても、多くの国民の理解と合意が不可欠だと考えられます。そうした重要な内容を含む法案であるにもかかわらず、そしてそこまで急がなければならない特段の事情があるわけでもないなか、わずかな時間の質疑で採決を行ったのは、国会軽視・国民軽視といわなければなりません。与党の姿勢は厳しく批判されるべきです。

 本稿では、衆議院での審議をふまえて、同法案の問題点について、さらに考えたいと思います。なお、国会での審議をできるだけ丁寧にご紹介したいことから、引用が長くなっています。そのため、やや読みづらいかもしれませんがご了承ください。


筆者

馬奈木厳太郎

馬奈木厳太郎(まなぎ・いずたろう) 弁護士

1975年生まれ。大学専任講師(憲法学)を経て現職。 福島原発事故の被害救済訴訟に携わるほか、福島県双葉郡広野町の高野病院、岩手県大槌町の旧役場庁舎解体差止訴訟、N国党市議によるスラップ訴訟などの代理人を務める。演劇界や映画界の#Me Tooやパワハラ問題も取り組んでいる。 ドキュメンタリー映画では、『大地を受け継ぐ』(井上淳一監督、2015年)企画、『誰がために憲法はある』(井上淳一監督、2019年)製作、『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』(平良いずみ監督、2020年)製作協力、『わたしは分断を許さない』(堀潤監督、2020年)プロデューサーを務めた。演劇では、燐光群『憲法くん』(台本・演出 坂手洋二)の監修を務めた。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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