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AIが感情と意識を持つことは可能か

『クララとお日さま』『隠された泉』が教えてくれること

塩原俊彦 高知大学准教授

「情念」から「利益」へ

 だが、こうした見方はそう簡単に生まれたわけではない。そもそも、近代化の前の段階で、価値観の「情念」(passion)から「利益」(interests)への移行という現象があり、それが「徳」から「作法」への移行や「感情」から「意識」への移行と関連性をもっていたことに気づかなければならない。

 アルバート・ハーシュマン著『情念の政治経済学』によれば、中世ヨーロッパでは、聖アウグスティヌスによって提示された、権力欲、性欲、金銭欲を非難する見方が支配的で、いわば、驕慢、嫉妬、貪欲ないし野心、権力欲、強欲などの情念を「悪」であり、抑制すべきであるとみなしていた。

 大雑把に言えば、情念を悪とみなす社会では、情念の一つを形成する金銭欲を軽蔑するため、カネ儲けを悪とみなし、カネ儲けに専心する者を蔑視するような視線が支配的となる。それが商業を軽視し、商人を疎んじることにつながる。利子の徴収(徴利)をめぐる宗教的な問題もあって、より一層、守銭奴が唾棄されるようになる。

 これは、儒教において、商業が蔑まれたのとよく似ている。だが、利益という概念が創出されたことで、情念を利益に対立させる一方で、少なくとも金銭的な利益を求めることへの寛容な視線が

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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