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ハッキングされた上海公安部データ 垣間見えるデジタル・パノプティコン化する中国

監視社会の強化が加速する中国。主たる目的はウイグル人の監視?

井形彬 多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授・事務局長

六つのソースが集約されたデータベース

 今回のデータベースは少し解釈が複雑だ。これは加工されていない完全な「生データ」であるため、特定の項目が何を意味するのかが明らかではないものも多い。

 比較的に分かりやすいものとしては、例えばある個人のデータに「日付」が紐づけられていた場合、実際にその個人を数名特定して話を聞くことで、「どうやらこの項目は『誕生日』のようだ」ということが分かる。他にも、車両に紐づけられた文字列が「ナンバープレート」である、といったことや、数字の羅列が「監視カメラの位置を示す緯度と経度」だろう、といった点は自明では無いものの、他に併記されたデータとの整合性を確認しながら手探りで判別できる。

 一方で、何を意味するかが全く分からない項目も多々存在する。よって、以下の本データベースの説明は、internet 2.0社や日豪英の各種メディアによる報道などを参考としながら、生データに見られて高確度で正しいと筆者が判断した点のみを取り出した「解釈」であることを前置きしたい。

 今回のデータは大きく分けると、以下の6つの異なるデータソースから取得されたと思われるものが一つのデータベースに集約されている。

①出入国管理情報

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 冒頭で紹介した「ウイグル人テロリスト」と名付けられた、空港から上海に出入りした人の個人情報リスト。中国人も含めると1万人弱、外国人のみで言うと5000人強のデータが含まれている。これは中国の出入境管理局が出元であり、氏名・性別・誕生日・パスポート番号・空港を通った時間と見られる情報などが含まれている。

 なお、この1万人弱の中から、100名以上の掲載が確認された国・地域別の内訳はの通りだ。表にある国々も含め、全部で125の国・地域出身として登録された人々がリストに含まれている。

② 上海金山区港防犯システム

 上海金山区港の一帯にある監視カメラにより捕らえられた各種データが含まれている。顔認証技術を使って補足された「歩行者」の画像データや歩いている向き、走行する「車両」のナンバープレートとそれに紐づけられた電話番号などの情報、港に出入りする「船」の船舶識別番号と見られる情報などが含まれている。かなりの頻度で情報収集されており、多い例では特定の車両が一日で600回近くカメラに捕らえられてデータ化されている。(下図参照)

拡大図:「上海金山区港防犯システム」から特定された監視カメラの位置。3km x 6kmほどのエリアに120ヶ所程のカメラから取られたデータが入っている。画像は「internet 2.0」提供。

➂ 科学技術部ブラックリスト

 「⿊名单(科技处)」と名付けられたデータ。監視対象として分類されていると見られる1万名のうち、7599名が「ウイグル人」としてタグ付けされている。さらに、監視対象となった理由として2017名が「上海の新たなウイグル人インターネット使用者」として分類されている。

④ 公安部犯罪データ

 「公安部七类重点⼈员基础信息」と名付けられたこのデータは、2015-2020年にかけて警察に拘束された、あるいは有罪となった人々と見られるデータが1万件掲載されている。どのような犯罪で拘束されたかが記されたこのデータだが、これに関しては特にウイグル人が突出して多いわけではなく、その約9割が「漢民族」として分類されている。

➄ 上海企業・従業員制御システム

 このリストには、爆発物や薬物などの生産が可能な企業約1000社と従業員約6万6千人の情報が掲載されている。企業に関しては国営・民間・外資・ジョイントベンチャーなのかといった分類や、管轄する政府部門、従業員に関しては爆発物・薬物等に関してどのような業務に携わっているのかと見られる情報などが掲載されている。

⑥ 交通委員会危険人物リスト

 「两客一危」と名付けられたデータ。2015-2020年の間に公共交通機関にて「悪いふるまい」を行った人々のデータが1万件含まれている。具体的にどのような「悪いふるまい」を行ったのかは記録されていないが、報告された場所や日時、本人の氏名・性別・住所と見られる情報などが掲載されている。

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筆者

井形彬

井形彬(いがた・あきら) 多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授・事務局長

米国シンクタンクのパシフィック・フォーラムSenior Adjunct Fellowや、国際議員連盟の「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」経済安保政策アドバイザーを兼務。その他様々な立場から日本の政府、省庁、民間企業に対してアドバイスを行う。専門は、経済安全保障、インド太平洋における国際政治、日本の外交・安全保障政策、日米関係。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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