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安倍・菅政権の政治手法は政官関係をどう変えたか~2021政治決戦 何が問われるのか②

総選挙を政治と官僚の関係の現状を評価し、そのあり方を抜本的に見直す契機に

星浩 政治ジャーナリスト

 新型コロナウイルスの感染に揺れる日本はこの秋までに、重大な選択を求められる。衆院議員の任期(4年)が10月21日には満了するので、それまでに解散・総選挙がおこなわれるからだ。我々はこの総選挙で何を選択するのか。政治制度や外交、経済政策を含めてシリーズ「2021政治決戦 何が問われるのか」で考察する。第2回は安倍晋三・菅義偉政権で目立った官邸主導の政治手法の実態を検証する。

党首討論で立憲民主党の枝野幸男代表の質問に答える菅義偉首相=2021年6月9日

 今秋までには必ず行われる衆院の解散・総選挙の争点は多岐にわたるが、計8年を超える安倍晋三・菅義偉政権で顕著だった首相官邸主導の政治手法については、正面から問われなければならない。とりわけ中央省庁幹部の人事権を首相や官房長官が握って政策を進めるやり方が、政治と官僚(政と官)の関係をどう変えてきたのか、十分に検証したうえで、総選挙に向けて議論を深めていく必要がある。

法制局長官を更迭。人事をテコに政策を転換

 2012年末に発足した安倍政権は、集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制の制定を狙っていた。立ちはだかったのは内閣法制局だった。集団的自衛権の行使は憲法9条に反するという見解を維持していたからだ。

 13年、安倍首相と菅官房長官は、安保法制の制定に向けて、当時の山本庸幸・内閣法制局長官を更迭。後任には、外務省の国際法局長当時から集団的自衛権の行使に前向きな考えを示していた小松一郎・駐仏大使を起用した。法制局長官は法務、総務、財務、経済産業各省出身者の回り持ちが定着しており、外務省出身者が就くのは異例だ。霞が関には安保法制に対する「安倍政権の本気度」が伝わった。

 内閣法制局は、集団的自衛権=違憲という姿勢を改め、容認に向けて舵を切った。小松氏はガンが見つかって入院、14年6月に死去した。後任の法制局長官には法務省出身の横畠裕介氏が就任。集団的自衛権を容認する国会答弁を繰り返した。

 当時の菅官房長官は私の取材に対して、「法制局は激しく抵抗するかと思ったが、それほどでもなかった。官僚は人事には弱い」と語っていった。官僚人事をテコに政策を転換していく安倍政権の手法が動き始めた。

 集団的自衛権の行使を容認する安保法制は、学者らの報告書提出を受けて関連法案が作成され、国会に提出された。国会審議は紛糾したが、15年9月に可決、成立した。

 ちなみに私自身はこの安保法制について、①海外での武力行使を禁じている憲法9条に違反する②日本の安全保障政策としては、日米同盟を強化しつつPKO(国連平和維持活動)など国連の枠組みを中心とする国際協力の枠組みを探るべきだ—―などと考えており、安倍政権が国会審議で十分な説明をせずに、関連法の成立に突き進んだことを批判してきた。

slyellow/shutterstock.com

内閣人事局を設置。官邸主導の霞ケ関人事が加速

  安倍首相と菅官房長官にとって、内閣法制局長官を交代させて関連法を成立させたことは「成功体験」となった。その後、安倍政権は官邸主導による霞が関の幹部人事を加速させていくことになる。

 例えば、農林水産省では2016年、省内で主流派とは言えなかった奥原正明氏を経営局長から事務次官に抜擢した。奥原氏は、菅官房長官が掲げていた農協改革に積極的な考えを示していため、菅氏が次官への昇格を強く求めたといわれる。菅氏は官房長官としてふるさと納税制度を推進し、この制度に異論を唱えた総務省の担当局長を更迭させたこともあった。

 制度的には2014年に首相官邸内に内閣人事局が設置され、ここで霞が関の官僚のうち審議官以上の約600人の人事を決定する仕組みができた。安倍、菅両氏の人事権行使を支える枠組みが整ったことになる。

内閣人事局発足式が行われ看板かけをする、(左から)加藤勝信内閣人事局長、稲田朋美内閣人事局担当大臣、安倍晋三首相、菅義偉官房長官=2014年5月30日、東京・永田町

財務省・佐川宣寿氏のケース~政権への忖度が露呈

 財務省の佐川宣寿氏が15年に関税局長に就いたのも、内閣人事局で了承された人事だ。佐川氏は事務次官などのトップコースを歩んでいたわけではない。関税局長は「上がりポスト」と言われている。局長の後は退任して民間企業などに転出するのが普通だ。

 しかし、佐川氏は玉突き人事もあって、16年に理財局長に転じた。理財局長はその後に国税庁長官や主計局長・事務次官などに昇格する可能性が高いポスト。佐川氏は俄然張り切って省内でも発信し、国会答弁にも臨んだと、当時の財務省関係者は証言する。

 そこで発覚したのが、森友事件だった。大阪府豊中市の国有地が、大幅値引きされて学校法人森友学園に払い下げられたことが明らかになった。森友学園は小学校を開設する計画を持っており、安倍氏の昭恵夫人が名誉校長に就く予定だった。学園の籠池泰典理事長は、安倍夫妻と懇意であることを公言していた。

 大幅値引きとの関連を国会で追及されると、安倍氏は「私や妻が関係していたら、総理大臣も国会議員も辞める」と断言した。担当の佐川理財局長は、値引きの交渉経過などを記録した記録は「残っていない」と繰り返した。そして、佐川氏は財務省の事務方ナンバー2である国税庁長官(次官級)に昇進した。

 その後、森友学園関連の交渉記録が改ざんされていたことが発覚する。安倍昭恵氏に関する部分などが削除されていた。文書を作成した近畿財務局の職員が、財務省幹部から改ざんを迫られ、自殺に追い込まれた。財務省の調査では、佐川理財局長が改ざんの中心的役割を担っていたと判定された。まさに霞が関官僚の「忖度」が露呈した事件であり、安倍・菅体制の政治主導・官僚人事が、行政を大きくゆがめた典型例といってよいだろう。

衆院予算委の証人喚問で、答弁する佐川宣寿・前国税庁長官=2018年3月27日

暴走した安倍・菅体制の官僚支配

 菅氏は「政治が決める政策に反対する官僚は異動させる」という姿勢を明確にしている。政策論議を尽くしたうえで、最終的に政治家が人事権を行使するのは妥当だが、一歩間違うと、政治家が人事権をちらつかせ、官僚たちが忖度して政策をゆがめることになりかねない。安倍・菅政権の官邸主導政治は、

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