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取り返しのつかない土地規制法案――参院で参考人として意見を述べました

国会は何のためにあるのか。立法事実もなく国民に大打撃の法案は廃案しかない

馬奈木厳太郎 弁護士

与党が強行採決した法案。参院内閣委の参考人質疑に出席

 土地規制法案について、論座でこれまで2回にわたって論じてきました。

欠陥だらけの土地規制法案――政府の裁量濫用で市民活動制限の恐れ(4月26日)」

矛盾深まる土地規制法案――数百万人の私権制限の恐れ。入管法に続き廃案しかない(6月2日)」

土地規制法案を与党の強行採決で可決した衆議院内閣委員会。採決後、反対派が委員長席に詰め寄った。右は小此木八郎・領土問題担当相=2021年5月28日
 衆議院内閣委員会で与党が強行採決した5月28日頃から、メディアの報道が増え、法案の問題点も徐々に知られるようになってきました。

 そうした状況の変化も受けて、参議院では、6月14日に法案を審議している内閣委員会が参考人質疑を行い、吉原祥子氏(東京財団政策研究所研究員)、半田滋氏(防衛ジャーナリスト)とともに、私も参考人の一人として出席しました。そこで、本稿では、参考人として意見陳述した内容と質疑のやりとりをご紹介するとともに、質疑を終えて思うところを述べたいと思います。

 では、まずは参考人質疑の際に述べた内容をご紹介します。以下が全文となります。

参議院内閣委員会に参考人として出席し、答弁する筆者=2021年6月14日、筆者提供

* * * * *

参考人質疑全文

 東京合同法律事務所に所属している弁護士の馬奈木と申します。貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。私は、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟という原発事故の被害者が国と東京電力を被告に原状回復と被害救済を求めた裁判にかかわっています。また、沖縄の問題にも様々な形でかかわってきました。そうしたことから、沖縄や原発も含め、これまであまり議論されていない論点を中心に、意見を述べたいと思います。

 本論に入る前に、法案に対する私の印象を述べておきます。

内閣総理大臣の内閣総理大臣による内閣総理大臣のための法案

菅義偉首相=2021年6月2日、首相官邸
 この法案は、だいたいにおいて4つの言葉から成り立っています。「内閣総理大臣」、「等」、「その他」、「できる」です。

 たとえば、「内閣総理大臣」は、○○「等」について、○○「その他」の○○に対して、○○することが「できる」といった感じです。「等」や「その他」という幅を持たせる表現が多いです。

 なにより、「内閣総理大臣」という主語が圧倒的に多い。28か条の条文のなかに、なんと33回も出てきます。その結果、この法案は、国民の権利を保障するものではなく、政府に権限に与える行政命令のような内容となっています。いわば「内閣総理大臣の内閣総理大臣による内閣総理大臣のための法案」という印象です。

 もう一点、私は安全保障論の専門家ではなく、法律が適用される現場に携わっている者です。そうした実務家の立場からは、この法案は一読して、現場の人や当事者の意見を聞かないまま作られた法案だなと感じました。以下、4点にわたってお話させていただきます。

土地規制法案の主な論点

「官製風評」で不動産に大打撃。政府は冗談のような答弁

 まず、区域指定による影響や弊害についてです。

 注視区域については検討中とのことですが、特別注視区域に指定されると、重要事項説明義務が生ずるとされています。売買などの契約に先立って、宅地建物取引士の方が説明をすることになりますが、これは書面に「特別注視区域に指定されている」と書けばいいというものではありません。根拠法令を資料に付けたうえで、こんな会話が展開されることになるかもしれません。

「この土地は、土地利用規制法に基づく特別注視区域に指定されています」
「それってどんな法律ですか?」
「国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与することを目的とする法律でして、土地等の利用実態を調査することになります」
「何のために調査するのですか?」
「重要施設に対する機能阻害行為を防止するためです」
「何かリスクがあるのですか?」
「リスクのあるなしも含めて調査します」
「調査内容はどんなことですか?」
「氏名や住所、その他政令で定めるものですが、なお必要があると認められるときは土地等の利用に関して資料の提出や報告を求められることがあります」
「誰が調査対象者なのですか?」
「利用者その他の関係者となりますが、利用者の定義はありますが、その他の関係者の定義はありません」
「いつ調査されるのですか?」
「権利変動の際といった限定がないので、恒常的に調査される可能性があります」
「調査されるときは何かお知らせがあるのですか?」
「そのような規定は設けられていません」
「どんな手法の調査なのですか?」
「手の内は明かせません」
「周りの人にも聞くのですか?」
「第三者からの情報提供の仕組みも検討中です」
「機能阻害っていうのは?」
「閣議決定において例示されますが、一概には申せません。でも、勧告を受けたらわかりますから大丈夫です」。

根拠欠落、現場感覚もない政府答弁

     土地規制法案の仕組み
 冗談のように聞こえるかもしれませんが、これは政府答弁です。実際に、こんなやりとりをしたら、みなさんは買いたい、借りたいと思いますか?

 政府は、不動産に与える影響は少ないと、根拠もなく述べていますが、そんなに甘くはないはずです。

 当事者の立場で想像してみてください。自分が調査されるかもしれない、規制がかかるかもしれないところをわざわざ購入しますか。しかも、この法案は、政府の説明では安全保障上のリスクがあるから法整備しようという話なわけで、区域指定されると、その地域はリスクがあるという風に一般には受けとめられるのではないですか。

 さらに5年後には見直しもありうるわけで、そうするとさらに規制が増えるかもしれない。1キロだって1キロのままではないかもしれない。区域指定された地域にとっては大打撃です。どの程度のリスクかもはっきりしないところで、これは「官製風評」といわなければなりません。

東京都心にある防衛省。周辺一帯は法案にある特別注視区域の対象となる可能性が高い=東京・市谷
 政府は、地元から不安の声があがっているといいますが、地元の人も、いやいやこんな内容は望んでないと仰るのではないですか。区域指定されることが当該地域に与える効果や影響について、法案もそうですが、これまでの質疑でも、現場感覚を伴ったやりとりがなされたとは到底思えません。実際に区域指定をする段になると、この内容のままでは、その地域からは猛反発を喰らうはずです。

 リスク、リスクと、あるかないかわからないものを見ようとしていますが、現場のリアリティは見えていないようです。

福島第一原発1~4号機(中央手前から)。1、3、4号機は水素爆発し、建屋の屋根や壁が吹き飛んだ=2011年3月24日午前、福島県大熊町、東京電力提供

なぜ原発が対象なのか。理由明かさぬ政府

 次に、これまであまり議論されていない原発についてです。

 生活関連施設として原発が検討されていますが、なぜ原発が対象になるのか理由が全く明らかにされていません。政府は、新規制基準を世界で一番厳しい基準だと豪語しています。新規制基準にはテロ対策も含まれていますから、世界で一番安全なはずです。まさか政府は新規制基準では足りないと考えているのですか?

 それから、原発との関係で機能阻害行為とは何を想定しているのですか? 

周辺住民は被害者、被害をもたらすのは施設。事故当事者の政府は考え改めよ

 この法案では、機能阻害というのは施設の外から人為的にもたらされる被害が想定されているようですが、原発については施設のなかから被害はもたらされています。

 被害者は、施設のなかの事業者や、事業者を監督する国ではありません。周辺住民が被害者なのです。

福島県内の全ての避難所で希望者に被曝(ひばく)検査をすることになり、検査を受ける人の長い列が出来た=2011年3月15日、福島市
人の気配がなくなった福島県双葉町の商店街。「原子力明るい未来のエネルギー」の看板がかかっていた=2011年4月25日

 原発によって阻害されるのは、ふるさとや地域との結びつきという機能であり、日常の生活や生業という機能です。そこを間違えないでいただきたい。

 住民を潜在的な脅威とみなすような考えは、事故を起こした当事者である国として、厳に戒められるべきです。原発に対する阻害をおそれるのであれば、その回答は住民を調査対象にすることではなく、原発をやめることです。

首相に限定のない権限、地方自治体は下請け機関扱い

 もう一つ、ほとんど議論がなされていない22条と23条について述べます。

 22条は、「内閣総理大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に対し、資料の提供、意見の開陳その他の協力を求めることができる」となっています。

 似た表現が7条にもありますが、こちらは土地等の利用実態の調査なのに対して、22条にはそうした限定はなく、「この法律の目的を達成するため」、「その他の協力を求めることができる」とあります。この法律の目的とは、「国民生活の基盤の維持」とか「我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与する」というもので、広範で、大雑把なものになっています。「その他の協力」というのも、限定がありません。内閣総理大臣に包括的な権限が与えられています。

沖縄県名護市辺野古の沿岸に土砂投入が始まった翌日、米軍キャンプ・シュワブのゲート前で抗議集会が開かれた。玉城デニー知事(後方中央)も駆けつけた=2018年12月15日、名護市
 たとえば、基地のゲート前で座り込みや集会を開き、道路やその付近に工作物などを設置している場合、安全保障上の観点から適当ではないとされれば、道路の管理者に撤去などを求めることが、22条によってできるようになるのではないですか。

 あるいは、都道府県の労働委員会は、「その他の執行機関」に含まれますが、労働委員会は労働組合の組合員に関する情報を保有しています。こういった土地の利用実態にはかかわらない情報についても、「目的を達するために必要」だといえば、提供を求めることができるようになるのではないですか。

 22条からは地方自治の本旨といった考えは窺えません。政府と地方公共団体は法的に対等なはずですが、内閣総理大臣の下請け機関のような扱いになっています。

強制収用のおそれ。大戦の反省による原則覆すな

陸上自衛隊石垣駐屯地の建設造成地。上は石垣市街地=2021年4月30日、沖縄県石垣市、朝日新聞社機から
 それから、23条は、「国が適切な管理を行う必要があると認められるものについて」、「買取りその他の必要な措置を講ずるよう努める」とあります。これは端的にいって、土地収用法を潜脱した形で、事実上の強制収用につながるのではないですか。

 「努める」とありますが、政府は何を行うのですか。買取りを申し入れること自体、所有者には圧力となる場合があります。たとえば、石垣島では自衛隊の基地建設が進行していますが、周辺で建設反対の立場を示している所有者に買取りを申し入れることはないですか。

 土地収用法は、防衛にかかわるものを、収用や使用ができる事業には含めていません。それは、先の大戦に対する反省があるからです。

 戦後作られ、長年にわたり守られてきた原則を、衆参通じても20時間程度の審議で、しかもこの論点については全くといっていいほど議論が交わされていないにもかかわらず、覆すようなことがあってはなりません。

だれも止められず、事後検証もできない

 4点目は、この法案が触れていない点についてです。

 法案では、止められる人や止められる機関がありません。事後的に検証できる制度も設けられていません。その意味で、この法案は公正とはいえません。

 どのような調査が、誰に対して、どんな手法で、いかなる協力を求めているのか、何を機能阻害行為と判断しているのか、そういった事柄を第三者がチェックし、場合によっては止めるといった手段が必要なのではないでしょうか。

 法案は、閣議決定で定める、政令で定める、府令で定める、必要があると認めるとき、といった文言のオンパレードです。国会の関与もなく、独立した第三者機関の関与もなく、調査対象者に調査の事実を告げるわけでもありません。

参議院内閣・外交防衛連合審査会で土地規制法案について答弁する小此木八郎・領土問題担当相=2021年6月10日

政府が国民を監視できる内容。立憲主義の原則と正反対

 この法案は、全幅の信頼を政府に寄せることを国民に求めています。しかし、立憲主義の大原則は、権力は暴走することがあるというものです。ですから、主権者である国民は、権力を監視し、チェックしなければならないのです。

 法案は、政府が国民を調査し、監視できるかのような内容になっており、完全に転倒しています。そして、それを止める術をもたないのです。第4条は「個人情報の保護に十分配慮しつつ」とか「必要な最小限度のものとなるようにしなければならない」などとありますが、その制度的な担保はないのです。少なくとも、止める手立てが法案自体に組み込まれていなければ、最小限度とはいえません。

住宅街に囲まれた米軍普天間飛行場=2021年5月1日、沖縄県宜野湾市、朝日新聞社機から

沖縄を丸ごと監視下に置く発想

 最後に、1995年9月まで沖縄の歴史や現実を知らなかった一人の日本人として、やはり沖縄について触れないわけにはいきません。

 法案によれば、沖縄県内の人が住んでいる島は、沖縄本島も含めてすべてが国境離島等に含まれおり、国境離島等の場合には1キロの制限なく区域指定できることから、その気になれば沖縄県全域を区域指定することができます。つまり、沖縄県民を丸ごと調査対象にすることができるということです。安全保障の名目で、県民を監視下に置くかのような発想は、まるで戦前のようです。

 昨年、沖縄県の恩納村にある、ある組織の沖縄研修道場を見学させていただく機会がありました。かつて中国に向けた核ミサイルメースBの跡地に作られた道場は、「基地の跡は永遠に残そう。人類は、かつて戦争という愚かなことをしたのだという、ひとつの証として」という考えから平和記念資料館として整備されています。

 また、そこには青年部・未来部が編集した、都道府県ごとの戦争体験の証言集も置いてあり、戦争体験の辛さや悲惨さとともに、軍が住民をスパイ扱いした事実なども語られていました。資料館では、中国や韓国を始め各国との交流も展示してあり、外国の人々について友と記されてありました。平和の文化の構築に向けた取り組みや戦争証言集の刊行など、私は大変深い感銘を受けました。

沖縄の民意や自治を、またも踏みにじるのか

 そうした戦争の教訓もふまえたとき、地域住民を調査対象とし、監視下に置くようなやりかたは、本当に正しいものなのでしょうか。証言者の方や証言集づくりにかかわった先達に対して、胸を張ることができますか。そして、友と呼んだ外国の人たちは、この法案を読んだらどういう気持ちになるでしょうか。

普天間飛行場に隣接する普天間第二小学校には2017年12月、米軍ヘリの窓が体育の授業が行われていた校庭に落下した。翌年に沖縄防衛局が建てた避難施設(左)は児童約100人が逃げ込める。その近くを普天間飛行場に着陸する米軍機が飛ぶ=2018年9月、沖縄県宜野湾市
 沖縄は、長年基地被害に苦しんできました。つい先日も米軍の不時着があり、有機フッ素化合物による被害も出ています。ある学校では、米軍機が飛来すると校庭の生徒が避難しなければならない、そんな日常にあります。政府は、口を開けば負担軽減といいます。しかし、この法案は、全く負担軽減にはなりません。その逆です。

 この法案が成立すると、もっとも影響を受けるのは、間違いなく沖縄です。沖縄の人々は、選挙権が停止されていたため、日本国憲法の制定に制度的にはかかわることができませんでした。米軍統治のもと、銃剣とブルドーザーで土地を収用されながらも、サンマ裁判と呼ばれるようなたたかいも経て、民主主義や自治を粘り強く獲得してきました。

 沖縄の民意や自治を、また踏みにじるのですか? そんなことが許されていいのですか。私は恥ずかしさと悔しさでいっぱいです。

有機フッ素化合物PFOSなどを含んだ水が流出した米陸軍貯油施設=2021年6月12日、沖縄県うるま市

何のための国会か。まだ間に合う。いったん取り下げを

 こんな政府丸投げ法案を成立させるようであれば、国会は何のためにあるのか、という話になると思います。まだ間に合います。いったん法案を取り下げませんか。

 この法案は、複数の考え方を無理に1つにしたことに問題の原因があります。その問題は「機能」という言葉に象徴され、「調査」という言葉の意味を分裂させています。

 すなわち、国境離島の実態調査に問題意識がある人と、防衛施設の機能確保に問題意識のある人がいて、さらには原発もという欲張りな人が加わって、無理やり合体させたのがこの法案です。国境周辺の離島の実態調査と、都市部も含む防衛施設周辺の実態調査とではまるで意味が違います。そこを機能という言葉で無理につなぎ、軍事的合理性だけで突っ走ったから、本当にひどい法案になってしまっています。

 みなさんも、本当はわかってますよね?

 急がないといけない事情はないはずです。しかも、安全保障にかかわるのであれば、より多くの人の納得と合意のもと、進められるべきです。

 良識の府である参議院の役割をぜひ発揮してください。ありがとうございました。

* * * * *

質疑で法案の理不尽さ次々に

 意見陳述のあと、各委員の方から、何点かにわたって質問をいただきました。主なやりとりとしては、立法事実(法整備を必要とする事情があるかないか)に関するもの、実行行為の以前から処罰対象とする考え方についてのもの、特定の外国勢力を脅威と扱うような考え方に関するもの、処罰の明確性が充分ではないことについてでした。私からは大要以下のように述べました。

土地規制法案を巡り参考人質疑をした参議院内閣委員会。中央が筆者=2021年6月14日、筆者提供

立法事実がないのは明白。法整備のそもそも論が問われ続けたのは異例

 まず、立法事実についてです。

 「いったいいま私たちの社会がいかなる状態にあるから、こうした規制が正当化されるというのか、というのが私の第一印象です。政府は、外国資本による防衛施設周辺の土地購入が安全保障上のリスクだとして、この法案の提案理由を語っています。立法事実があるのかと、質疑でも多くの時間が費やされてきました。法整備を必要とする事情があるのかというそもそも論が、これだけ問われた法案も、あまり例がないと思います。

 すでに衆議院段階で、立法事実がないということは明らかになったと思われますが、念のため申し上げておくと、立法事実は、法案の内容がその法整備を必要とする事実に対応し、充足するものである必要があります。仮に、政府が述べるように、防衛施設の周辺土地が外国資本に購入された事実が何らかの安全保障上のリスクだとして、それに対応するためにここまでの規制を及ぼし、ここまでの権限を与えなければならないのでしょうか。

 リスクとされるものの程度に比して、規制内容が完全にバランスを崩していると考えます。それはすなわち、立法事実足りえないことを物語っています」と述べました。

実行行為以前から処罰対象、際限なく拡大の恐れ。予測可能性の大原則に抵触

 次に、今回の法案では、実行行為の以前から処罰対象としていることをどう考えるかという点についてです。

 「おそれを理由に規制を始めると、どこまでもそのおそれは尽きることがありません。時間軸がどこまでも前倒しにされ、範囲が際限なく拡大される危険性があります。勧告や命令を出す根拠として、機能を阻害するとかその明らかなおそれという風に定めていますが、この機能という用語をキーワード・鍵概念としたことが、行為の特定を大変曖昧なものにしてしまっています。これまでの日本の法律で、罪となる事実を機能に着目するという曖昧な形で規定したものはないのではないかと思います。

 では、そうなのになぜ今回は機能としたのか。それは、行為に着目する形ではとらえきれない、行為とは評価できないものも含めて対象にしたかったからと考えざるをえません。共謀罪がその一つの先例ですが、実行行為の前の準備行為や計画であっても処罰対象としています。今回の場合、電波を飛ばす前の段階、偵察行為と評価できる以前の段階とか、そうした段階で何らかの規制をかけたい、そういう考えから、保護法益を機能という形に整理したのだと思います。

 しかしながら、こうした可視化しづらいものを保護法益とするやりかたは、罰則を予定する場合の大原則である予測可能性と抵触することになりかねません。今回の法案は、まさに抵触していると思います」と述べました。

憲法と相容れないゼノフォビアやヘイトの発想

 3点目の、特定の外国勢力を脅威かのように扱うという発想についてです。「そもそもが、外国資本がどうのこうのという発想そのものが、実態としては行為に着目するのではなく属性に着目する発想です。しかも、国籍という大括りの属性に着目し、特定の国を潜在的な脅威であるかのように扱うものですが、この発想自体が、ゼノフォビア(外国人嫌悪)であり、ヘイトです。その前提には、日本の社会がホモソーシャルだという誤った認識があります。

 こうした考え方は、個人主義を基調とする日本国憲法とは相容れるものではありません。運用に支障がないとされているなか、抽象的なおそれで、それこそ具体的な支障の例の1つも挙げないで、これだけの権利制限や規制を行おうというのはありえないです。

 必要なのは立法ではなく、そうした認識を変えることです。多様な価値観が認められ、多文化社会となっているときに、ホモソーシャルでゼノフォビア的な発想は克服されなければなりません。今国会では、LGBT法も同じですが、議員の方々のそうした意識が、非常に浮き彫りになったのではないかと感じています」と述べました。

土地規制法案を与党の強行採決により可決した衆議院内閣委員会=2021年5月28日

全てを閣議や政令に委ねる法案。できてしまうと止めるのが大変

 明確性が充分ではないという点については、「一つ条文をご紹介します。『何人といえども要塞司令官の許可を得るにあらざれば要塞地帯内水陸の形状を測量、撮影、模写、録取することを得ず』。これは要塞地帯法の条文です。戦前の法律ですが、何をしてはいけないのかが明確に書いてあります。

 いまは戦後です。全てを閣議決定、政令、府令に委ねる。それなら国会はいらないと思います。

 こうした法律は、いったんできてしまうと止めるのはなかなか大変です。いまならまだ間に合います。

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