甘粕代三(あまかす・だいぞう) 売文家
1960年東京生まれ。早大在学中に中国政府給費留学生として2年間中国留学、卒業後、新聞、民放台北支局長などをへて現業。時事評論、競馬評論を日本だけでなく中国・台湾・香港などでも展開中。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
感染拡大に“ワクチンの乱”、追い込まれた蔡英文政権
ワクチン“日照り”が続く中、台湾では地方首長、大物財界人や宗教団体が独自にワクチン導入を計画し、蔡英文民進党政権に許可を求めている。
しかし、蔡英文政権は中央政府による製造元からの一括購入の方針を改めず、ワクチン導入は与野党対決、政争に発展。大陸に最も融和的なミニ政党・新党は日本からのワクチン到着前日の6月3日、日本の敗戦直後に宮城前広場で起きたコメよこせデモを彷彿とさせる“ワクチンよこせデモ”を総統府前で催し、人影、物音も消えた台北市内にワクチンよこせの大音声がこだました。デモは警察によって忽ちのうちに排除され、総統府周辺は厳重な交通管制の下に置かれた。
「台湾では大事件、大事故が起きると、大陸や日米との距離感が異なる政党が、外省人か本省人かという出身階層とエスニック、統一か独立かという政治的な立場の違いから、よく言えば百家争鳴、悪く言えば言いたい放題の一大場外乱戦を始めます。本来の建設的議論とはかけ離れた悪循環に陥ってしまう台湾の宿痾はコロナ対策、ワクチン問題でも再発してしまいました。与野党それぞれの政治的主張、思惑を割り引いて観察しないと問題の所在と本質を見誤ってしまいます」
全国紙元台北支局長は、コロナ禍下の台湾を観察して語る際には台湾独特の事情、問題を考慮すべきであると指摘する。
さて、現在の台湾は“ワクチンの乱(疫苗之乱)”の真っただ中にある。
この言葉が台湾メディアを飾らぬ日はない。ワクチンの“乱”と“日照り”の諸相を、“走馬看花”(中国語で「駆け足で見る」の意)してみたい。
ワクチン“日照り”の下、台湾当局による接種を待ってはいられない、とばかりにアメリカへのツアーが登場した。西海岸8日間2人部屋使用で1人エコノミークラス15万ニュー台湾ドル(以下NT$、邦貨約60万円)、ビジネスクラスならNT$29万9000(邦貨約120万円)と甚だ高価ながら人気を集めている。30日滞在の長期型は更に値が張るが、桃園国際空港にはペットを連れて出境する家族の姿が少なからず見られるという。
この盛況には外国製、特に米ファイザー製を渇望する台湾住民の嗜好が反映されていると言える。
外国製に続いて求められるのが台湾製だが、これが大乱戦の火種となった。
総統・蔡英文は感染爆発後の5月18日、コロナ対策を管轄する中央感染症指揮センターを視察した後、「7月末までに最初の国産ワクチンを提供
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?