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【13】〝ホイッスルブローワー〟を保護しない国

公益通報者を守らず、政府にも企業にも腐敗が蔓延

塩原俊彦 高知大学准教授

「内部通報者」だけを保護する制度は不十分

 ここまで、ホイッスルブローワーを定義せずに説明してきた。本当は、この問題は、亀井将博・和田皇輝による「連載:内部通報制度の有効性を高めるために」の「第1回 内部通報制度とは~日本企業への内部通報制度の浸透度~」に収載されている下記の図2を前提に考えなければならない。

拡大図2 内部通報、外部通報、内部告発、公益通報の関係イメージ図
(出所)https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/risk-management/2020/wcms-definition.html

 内部通報は、通報者による不正行為の主体組織に対する不正行為の通報を意味している。これに対して、外部通報は、通報者による不正行為の主体組織ではない外部への不正行為の通報を意味している。本来、ホイッスルブローワーはいずれの通報者も含まれていると考えなければならない。その意味で、内部通報者だけを保護する制度は不十分だ。

 ただ、公益通報という、通報者による公益に資する通報は内部通報にも外部通報にも含まれる部分があるとみなすことができる(日本の場合、公益通報者保護法だから、内部通報者だけを保護しているわけではない)。なお、内部告発とは、外部通報のうち、通報者による不正行為の主体組織ではない外部への通報を意味している。

 ホイッスルブローワーを「公益」にかかわる不正行為を通報する者とみなす場合、その通報先は内部であっても、外部であってもかまわない。問題なのは、内部に通報する場合、通報者の立場が守られるかにかかっている。外部に通報する場合であっても、内部調査が必要になるから、その過程で通報者が不利益を受けないようにする必要がある。同時に、公益そのものである官庁にかかわる公務員、政府調達供給先である企業、公共事業の請負先企業などに勤務する通報者の保護には特段の配慮が必要となるであろう。

 たとえば、韓国では、2002年1月末に施行された腐敗防止法で、大統領直属の腐敗防止委員会への告発を活性化するため、告発者に対する保護規定を設けている(2003年の「内部告発者保護制度をめぐる動き」を参照)。同委員会および調査機関は告発者の身分を公開してはならず、告発者は身辺保護措置を要求することができる。告発者に対し、所属機関は告発を理由とする懲戒措置などの不利益を与えてはならない。告発者に不利益を与えた場合には1000万ウォン(約100万円)以下の過料が科される。さらに、公務員は不正腐敗行為を発見した場合には必ず申告しなければならない。申告によって公共機関の収入増大や経費削減をもたらした場合、申告者は腐敗防止委員会に報償金を要求することができる。

 つまり、「公益」を毀損する事態へのホイッスルブローワー保護がかなり徹底されていることになる。だが、日本政府はこうした海外の事例を知りつつ、広義のホイッスルブローワーを徹底的に保護することで、政府や企業の腐敗を早期に発見し、是正する気をまったく見せていない。その結果、政府にも企業にも腐敗が蔓延し、それがニッポン不全という症状を悪化させる一因となっている。

 その証拠が2021年6月4日に明らかにされた、東北新社をめぐる総務省の接待問題を調べていた第三者による検証委員会(座長・吉野弦太弁護士)による報告書だろう。同時に同省が発表した調査では、幹部らがNTTなどの関係企業から延べ78件の接待を受けていたことが新たに判明、関係職員32人を処分(うち9人は減給などの懲戒処分とし、23人は訓告など)した。総務省全体が「たかり体質」に染まり、腐敗しきっていたことになる。凡庸で、さもしい人間の集まりが総務省と言ってもいいかもしれない。

拡大参院予算委で謝罪する東北新社の中島信也社長=2021年3月15日

 それでも、若手の職員のなかには、こうした情けないほど腐った上司を厳しく断罪したいと思いながら、身の保身から、ホイッスルブローワーになりえない人もいるだろう。そうしたホイッスルブローカーを守る制度が整備されなければ、「朱に交われば赤くなる」のたとえどおり、善意の若手官僚も腐敗に染まってしまう。

 こんなことはかつての大蔵省の不祥事ではっきりしたのに、制度として腐敗を防止するメカニズムさえつくれず、たまたま総務省だけがそのひどさを少しだけ垣間見せたにすぎないと考えるのが正しいだろう。総務省ほどめちゃくちゃではないにしろ、他の省庁でも間違いなく腐敗が蔓延していると勘繰りたくなる。

 これがいまの日本であり、「ニッポン不全」につながっているのだ。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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