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「リンゴ日報」最後の日~中国共産党、苛烈化する香港民主派への弾圧

合法的な脅しと暴力によって“抹殺”された「自由」と「民主」

今井 一 ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

 中国政府やその支配下にある香港行政府に対して批判的な姿勢を貫いた新聞「蘋果日報」(リンゴ日報=Apple Daily)は、6月24日付の同紙発行をもって廃刊となった。また、この廃刊に伴い、デジタル版(登録会員は世界中に380万人いて、そのうち有料会員は63万人)によるニュース配信も終了した。

 これは、習近平・中国共産党の「合法的な脅しと暴力」による“抹殺”だ。彼らが殺したもの。それは「蘋果日報」という新聞だけではない。言論・表現の自由、とりわけ中国政府や中国共産党を批判する自由を、主権者であるはずの人民(香港市民)やさまざまな香港メディアから奪った。

 当局による「蘋果日報」に対する攻撃は今に始まったことではない。例えば、香港行政府は前の長官時代から「蘋果日報」に広告を出す企業に圧力をかけ、そのダメージから同紙の経営は悪化した。経営陣は廃刊を免れるべく2017年に25%の人員削減を断行している。その後、紙よりウェブに比重を高めた同紙は、2019年6月以降の民主化運動を全面的に支援する紙面展開を連日のように行い、若年層を中心に多くの香港市民の支持を得て財務的に持ち直した。

 広告主への圧力作戦でとどめを刺せなかった中国当局は、より強引かつ直接的な手を使って「蘋果日報」を“抹殺”することを企んだ。

黎智英の逮捕を皮切りとした計画的な弾圧

 この1年間の動きを見ると、中国共産党はリミットを決めたうえで、計画的に「蘋果日報」の“抹殺”を進めてきたことがわかる。中国共産党とその傀儡である香港行政府にとって、7月1日の「返還記念日」は10月1日の「国慶節(建国記念日)」同様とても重要な日だ。とりわけ共産党結党100周年となる今年は、共産党を称賛するさまざまなイベントを開催するのに、それを揶揄するような報道は絶対に阻みたい。なので、彼らは2021年7月1日までに「蘋果日報」を廃刊に追い込みたかった。

 中国の全人代は、昨年の「返還記念日」の前日(6月30日)に、国安法(香港国家安全維持法)の制定を決め、即日施行した。この法律は日本の戦前・戦中に存在した治安維持法のようなものだが、その施行までは、「香港は中国への返還後も2047年までは一国二制度でいく」という建前上、ある程度の政治的・市民的自由が香港の人々に保障されていた。

 だが、この国安法施行によって香港の市民やメディア関係者は、北京や武漢など各都市に住む中国人と同じように、中国政府や中国共産党を批判すれば、「国家の転覆を図っている」などと言われ、投獄されたり資産を凍結されたりすることになった。

 にもかかわらず、「蘋果日報」及び同紙を傘下に置く上場メディア企業「壱伝媒」(Next Digital)の創設者・黎智英(Jimmy Lai)は、ツイッターなどで間断なく続けてきた習近平や中国共産党に対する厳しい批判をやめなかった。1989年の天安門事件を契機に中国共産党への不信を強め、香港のメディア界に進出した黎智英は、「CCP(中国共産党)は恫喝することによって人々を隷属させ支配してきたが、私は脅しには屈しない…」とツイートするなど、逮捕覚悟で怯むことなく中共批判を発信し続けた。

 そして、ついに昨年8月10日に逮捕され、本年4月16日には実刑判決を言い渡される。「罪状」は過去に無許可集会を組織したとか外国勢力と結託して国家を危機に陥れようとしたとか難癖の類で、当局は黎智英を投獄するだけではなく彼名義の銀行口座を閉鎖するなどして莫大な個人資産を凍結した。

2021年2月9日、拘置所から裁判所に移送された黎智英(Jimmy Lai)撮影:Cheng Wai Hok拡大2021年2月9日、拘置所から裁判所に移送された黎智英(Jimmy Lai)撮影:Cheng Wai Hok

  彼が実刑を言い渡された日、黎氏への取材経験もある香港人ジャーナリストが私にこう話した。

 「実刑判決は予想していたが、今後、追起訴によって刑期が延びる可能性は濃厚で、72歳の彼には厳しい仕打ちだ。さらに気掛かりなのは、『蘋果日報』が存続できなくなるかもしれないということ。中国政府はここを叩き潰したくて仕方ない。そのうち、記事の内容が国家転覆を図っているとか嘘の報道をしているとか言って廃刊に追い込むかもしれない」

 そのわずか2カ月後、彼が危惧した通りの事態となった。

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筆者

今井 一

今井 一(いまい・はじめ) ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

 1991年以降、ソ連、ロシア、スイス、フランス、イギリスなどで国民投票の取材を重ね、国内では新潟県巻町、名護市、徳島市など各地で実施された住民投票を精力的に取材。2006年~07年には、衆参各院の憲法調査特別委員会に参考人及び公述人として招致され、国民投票のあるべきルールについて陳述する。著書に『CZEŚĆ!(チェシチ)──うねるポーランドへ』(朝日新聞社)、『住民投票』(岩波書店)、『「憲法9条」国民投票』(集英社)、『国民投票の総て』、『住民投票の総て』(ともに[国民投票/住民投票]情報室)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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