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「リンゴ日報」最後の日~中国共産党、苛烈化する香港民主派への弾圧

合法的な脅しと暴力によって“抹殺”された「自由」と「民主」

今井 一 ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

「蘋果日報」潰しが目的の家宅捜索と幹部逮捕

 香港保安局は、今月17日に500人余の警官を「蘋果日報」の社屋に出動させて家宅捜索を行なった。彼らは、記者や編集者らが使っているハードディスクドライブ(44台)を押収すると同時に、編集長の羅偉光(Ryan Law)や「壱伝媒」(Next Digital)のCEO張剣虹(Cheung Kimhung)ら5人を国安法違反容疑で逮捕。また、関連する3社の資産、計1800万香港ドル=約2億5600万円を引き出せないように凍結した。

 これについて李家超保安局長は、「報道資料の捜索と押収を認めている国安法に基づき発行された令状を得て社屋を捜索し、幹部5人を逮捕した。2019年以降『蘋果日報』の記事の中に、中国政府や香港行政府、及びその関係者に制裁を科すよう外国勢力に呼びかけ、国家を危険に陥れようとしたものが数十本以上あった」と述べた。

 事実上のトップである黎智英の逮捕に続いて5人の幹部が逮捕され、しかも黎智英個人の口座に加えて会社の銀行口座も閉鎖されては、新聞印刷にかかる費用を業者に払えなくなるし、700人を超す同社の従業員に給料を振り込めなくなる。こうした事態に追い込まれた「蘋果日報」は、創刊から26年で発刊を停止せざるを得なくなった。

 これに伴い700人を超す同社の従業員はすでにほぼ全員が退職届を出し、逮捕・投獄も含めた当局による個々人への弾圧を回避しようとしているが、この先、彼らがどういう仕打ちを受けるかはわからない。

香港市民が連帯の意思をこめて「爆買い」

 5人が逮捕された翌日付の「蘋果日報」(1部10香港ドル=約140円)は、通常の6倍にあたる50万部を刷ったが、午前中に完売した。そして、最終号となった24日付は、なんと100万部を刷って発行したが、これも同じく完売した。人口700万人余の香港で100万部が発行から数時間で売り切れるという驚くべき現象。これは、自由と民主を求める香港市民の多くが「蘋果日報」への連帯の意思を込めて購入したからで、中にはコンビニや露店で50部、100部と買った後、「代金は支払い済み。自由に持っていってください」などと記したメモを貼り付けた上で人通りの多い路上に「蘋果日報」の束を置いていく人もいる。

 気になるのは、100万部を売上げた代金の行方だ。本来ならば販売者はその売上代金の何割かを「蘋果日報」の指定の口座に入金するのだが、当局は幹部5人を逮捕したその日から、そうした振り込みができないようにしている。なので、市民が支援のつもりで大量に買っても、今はその代金が「蘋果日報」に届かない状況になっている。だが、大丈夫。露店で「蘋果日報」を販売しているおばさんは、こう言う。「確かに今は振り込めません。でも、このお金は保管して、いつか振り込める日が来たら必ず蘋果に渡しますから」

24日午前0時20分、輪転機の横で、刷り上がった最終号を手にする印刷スタッフ=撮影:Cheng Wai Hok拡大24日午前0時20分、輪転機の横で、刷り上がった最終号を手にする印刷スタッフ=撮影:Cheng Wai Hok

24日午前3時、旺角駅そばの露店で最終号を買った夫婦。「子どもが大きくなったら、この新聞を見せて、香港で何が起こったのかをきちんと話します」=撮影:Kaoru Ng拡大24日午前3時、旺角駅そばの露店で最終号を買った夫婦。「子どもが大きくなったら、この新聞を見せて、香港で何が起こったのかをきちんと話します」=撮影:Kaoru Ng


筆者

今井 一

今井 一(いまい・はじめ) ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

 1991年以降、ソ連、ロシア、スイス、フランス、イギリスなどで国民投票の取材を重ね、国内では新潟県巻町、名護市、徳島市など各地で実施された住民投票を精力的に取材。2006年~07年には、衆参各院の憲法調査特別委員会に参考人及び公述人として招致され、国民投票のあるべきルールについて陳述する。著書に『CZEŚĆ!(チェシチ)──うねるポーランドへ』(朝日新聞社)、『住民投票』(岩波書店)、『「憲法9条」国民投票』(集英社)、『国民投票の総て』、『住民投票の総て』(ともに[国民投票/住民投票]情報室)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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