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安倍・菅政権の外交・安保政策の実態と課題~2021政治決戦 何が問われるのか③

「リアリズム」で日米同盟を強化  米中対立の中、長期的な日本の針路は示されず

星浩 政治ジャーナリスト

 新型コロナウイルスの感染に揺れる日本は、この秋までに重大な選択を求められる。衆院議員の任期(4年)が10月21日には満了するので、それまでに解散・総選挙がおこなわれるからだ。我々はこの総選挙で何を選択するのか。政治制度や外交、経済政策を含めてシリーズ「2021政治決戦 何が問われるのか」で考察する。第3回は安倍晋三・菅義偉政権の外交・安全保障の論点を整理してみる。

日米首脳会談後に共同会見をする菅義偉首相(左)とバイデン大統領=2021年4月16日、ワシントンのホワイトハウス

日米同盟を強化した安倍政権、継承した菅政権

 衆院の解散・総選挙では、新型コロナウイルス対策や景気・経済対策が大きな柱となるが、米国と中国という超大国間の対立が鮮明になる中で、日本の外交・安全保障のあり方も問われなければならない。安倍晋三政権は日米同盟を強化し、菅義偉政権はその流れを引き継いでいるが、米中対立の中での長期的な日本の針路は示されていない。

 2012年から7年8カ月に及んだ安倍政権は、日米同盟を強化する目的で安全保障法制を成立させた。それまで憲法上禁止されてきた集団的自衛権の行使について、限定的とはいえ、容認する内容である。これにより、米軍が海外で攻撃を受けた場合、日本への攻撃とみなして、自衛隊による武力行使が認められることになった。

 日米両政府は安全保障面で日米の連携が強化されると評価した。米国が軍事費の増大などへの懸念から海外への軍事展開を抑制する傾向を見せる中で、安保法制には米軍を東アジアにとどめるための方策という側面もあった。一方で「憲法違反」という疑念を払拭できないまま、関連法成立に向けて国会審議を押し切ったという大きな問題も残した。

「リアリズム」に基づく安倍首相の対米外交

 米国では2016年11月の大統領選で共和党のトランプ氏が当選。トランプ氏は日米両政府が推進してきたTPP(環太平洋経済連携協定)や温暖化防止のための国際約束となっていたパリ協定からの離脱などを明確にしていた。

 それでも、安倍首相は17年1月の大統領就任式を待たず、16年末に訪米してトランプ氏と会談。TPPからの離脱などへの直接的な批判は避け、トランプ氏に抱き付く形で「日米蜜月」をアピールした。さらに、19年には、新天皇が即位して初めて迎える国賓としてトランプ大統領を招き、歓迎ムードを演出した。

 安倍首相の対米外交から見えてくるのは、米国を東アジアと日米同盟に引きとどめておくためには、米国の意向に沿う安全保障政策を打ち出し、大統領には個人的信頼を得るために抱き付いていくしかないという「リアリズム」であった。

 そこでは、自由や民主主義など基本的な価値観や理念をめぐる議論は、わきに置かれていた。例えば、安倍首相は就任から丸1年たった13年12月に靖国神社を参拝、中国や韓国から批判を浴びた。この時、米国政府も異例の「失望」表明をした。日本による過去の戦争や植民地支配に対する日米の歴史認識には隔たりを残したままである。

「親書書き換え問題」で露呈した安倍外交の弱点

 安倍・菅政権の外交を評価するにあたって、二つの出来事を紹介したい。

 一つは、安倍首相から中国の習近平主席に宛(あ)てられた親書の書き換え問題である。

 2017年5月、自民党の二階俊博幹事長が北京を訪れた。中国が掲げるシルクロード経済圏構想の「一帯一路」に関する国際会議に出席するためだ。二階氏は安倍首相から託された親書を習主席に手渡した。そこには、中国が主導する「一帯一路」構想に日本も協力していきたいという前向きな内容が書かれていた。

 政府関係者によると、首相官邸で外交・安全保障政策を統括している谷内正太郎国家安全保障局長(当時)は、北京の日本大使館から親書の内容を聞いて愕然(がくぜん)としたという。二階氏の訪中に先立って、安倍首相が麻生太郎副総理・財務相、菅官房長官らと協議してまとめた親書の内容は、「日本としては一帯一路構想には慎重に対応していく」という文言になっていたからだ。

 「誰かが親書を書き換えたはずだ」と、谷内氏や外務省は経緯を調査した。その結果、二階氏に同行していた今井尚哉・首相秘書官がひそかに書き換えていたことが判明した。

 経済産業省出身で安倍首相の信任が厚い今井氏は、日本が中国との経済交流を進めていくうえで、一帯一路構想に後ろ向きの親書を渡すわけにはいかないと判断し、書き換えに踏み切ったという。谷内氏は安倍首相と菅官房長官に経緯を説明して今井氏に抗議。菅氏は谷内氏の主張を支持したという。

 この「親書書き換え問題」では、安倍首相ら政治家が決めた外交方針が秘書官の独断で捻じ曲げられたうえ、その経緯が説明されていない。不明朗な意思決定の実態が明らかになった。さらに、台頭する中国にどう向き合うかという外交の基本姿勢を安倍政権が明確にできていないことも露呈した。安倍政権を引き継いだ菅政権も、この親書書き換え問題を含め、中国への基本姿勢を固めきれていない。

中国の習近平国家主席(右)との会談で出迎えを受ける自民党の二階俊博幹事長(左から2人目)=2017年5月16日、中国・北京の釣魚台国賓館

北方領土問題と戦後日本外交の評価

 第二の出来事は、北方領土問題をめぐる対ロシア外交である。

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