星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト
1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「リアリズム」で日米同盟を強化 米中対立の中、長期的な日本の針路は示されず
新型コロナウイルスの感染に揺れる日本は、この秋までに重大な選択を求められる。衆院議員の任期(4年)が10月21日には満了するので、それまでに解散・総選挙がおこなわれるからだ。我々はこの総選挙で何を選択するのか。政治制度や外交、経済政策を含めてシリーズ「2021政治決戦 何が問われるのか」で考察する。第3回は安倍晋三・菅義偉政権の外交・安全保障の論点を整理してみる。
衆院の解散・総選挙では、新型コロナウイルス対策や景気・経済対策が大きな柱となるが、米国と中国という超大国間の対立が鮮明になる中で、日本の外交・安全保障のあり方も問われなければならない。安倍晋三政権は日米同盟を強化し、菅義偉政権はその流れを引き継いでいるが、米中対立の中での長期的な日本の針路は示されていない。
2012年から7年8カ月に及んだ安倍政権は、日米同盟を強化する目的で安全保障法制を成立させた。それまで憲法上禁止されてきた集団的自衛権の行使について、限定的とはいえ、容認する内容である。これにより、米軍が海外で攻撃を受けた場合、日本への攻撃とみなして、自衛隊による武力行使が認められることになった。
日米両政府は安全保障面で日米の連携が強化されると評価した。米国が軍事費の増大などへの懸念から海外への軍事展開を抑制する傾向を見せる中で、安保法制には米軍を東アジアにとどめるための方策という側面もあった。一方で「憲法違反」という疑念を払拭できないまま、関連法成立に向けて国会審議を押し切ったという大きな問題も残した。
米国では2016年11月の大統領選で共和党のトランプ氏が当選。トランプ氏は日米両政府が推進してきたTPP(環太平洋経済連携協定)や温暖化防止のための国際約束となっていたパリ協定からの離脱などを明確にしていた。
それでも、安倍首相は17年1月の大統領就任式を待たず、16年末に訪米してトランプ氏と会談。TPPからの離脱などへの直接的な批判は避け、トランプ氏に抱き付く形で「日米蜜月」をアピールした。さらに、19年には、新天皇が即位して初めて迎える国賓としてトランプ大統領を招き、歓迎ムードを演出した。
安倍首相の対米外交から見えてくるのは、米国を東アジアと日米同盟に引きとどめておくためには、米国の意向に沿う安全保障政策を打ち出し、大統領には個人的信頼を得るために抱き付いていくしかないという「リアリズム」であった。
そこでは、自由や民主主義など基本的な価値観や理念をめぐる議論は、わきに置かれていた。例えば、安倍首相は就任から丸1年たった13年12月に靖国神社を参拝、中国や韓国から批判を浴びた。この時、米国政府も異例の「失望」表明をした。日本による過去の戦争や植民地支配に対する日米の歴史認識には隔たりを残したままである。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?