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五輪が浮き彫りにした「なし崩し」と「しぶしぶ受入れ」というこの国の通弊

国民に真摯に向き合わぬ政治 「対話の文化」の欠如が民主主義の成熟を妨げる

花田吉隆 元防衛大学校教授

 オリンピック、パラリンピック開催まで残すところあと1カ月を切り、関係者による準備が着々と進められている。パンデミックス対策で世界中が様々な行動制限を続け、これだけ国民が開催に不安を感じていながら、あくまで開催を強行しようとする政府、大会組織委員会の姿勢を見るにつけ、この国の政治の通弊を思わざるを得ない。

 政府は、「国民と真摯に対話しようとの気がなく、ただ、自らの意志を押し通す」だけであり、一方、これを受けた世論も「初めは反発しつつも、いつの間にか反対の機運がしぼみ政府案を受け入れていく」という、いつも繰り返されるお定まりのパターンだ。しかし、こういうことが繰り返されていいわけがない。

拡大東京五輪の開幕予定日まで1カ月を切った国立競技場。周辺には、本番に向けた看板が設営されている=2021年6月23日、東京都新宿区

「モリ・カケ・桜」より露骨、納得できぬ国民

 思えば「モリ、カケ、桜」もそうだった。国会で長々と論戦が繰り返されたものの、論点は一向に定まらず、野党の力不足もあって、議論はすれ違い、いつの間にかうやむやになった。そういうことがあってはならないと思いつつ年を越したら、また同じことの繰り返しだ。それにしても、今回はまた露骨といえばあまりに露骨だ。

 少し前まで世論調査で、国民の7~8割が五輪開催の中止または延期を求めていた。少なくとも政府には、そういう国民の声に真摯に向き合う必要があったが、実際には、政府は、「国民の命と健康を守る」「安全安心な大会の開催に努める」の決まり文句を繰り返すだけで、どう守るのか、どう安全安心なのか、国民には一向に納得がいかない。世論調査で、開催に不安を感じるとする声は、依然6割に上る(6月19日、毎日新聞)。

拡大東京五輪・パラリンピックの開催に抗議し、デモ行進する人たち=2020年6月23日、東京都新宿区
拡大福島市の医療施設の医師や看護師、利用者ら約100人が東京五輪の開催中止を訴えた。政府や組織委が感染対策の対応を具体的に説明していないことなどを指摘し、「医療の負荷をこれ以上、上げないで」と抗議した=2021年6月23日

議論も尽くさず既成事実化、専門家をも黙殺

 中止か開催かの議論も尽くされないまま、いつの間にか、議論が「有観客か無観客か」に移り、今はそれも過ぎ、収容人数が何人か、が議論されている。なしくずし的に既成事実が積み重ねられ、国民は、いつの間にか、それを受入れざるを得ない状況に追い込まれていく。

 世論調査では、読売(6月4~6日)が、「中止」48%(5月、59%)、「観客数制限で開催」24%(同16%)、「無観客開催」26%(同23%)、FNN(6月19,20日)が、「中止」30.5%(5月、56.6%)、「観客数制限で開催」33.1%(同15.5%)、「無観客開催」35.3%(同26.3%)と、6月に入り「開催」が「中止」を上回る結果となっている。

拡大感染拡大リスクに関する提言後、記者会見する政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら有志の専門家たち=2021年6月18日、東京都千代田区
 確かにここまで状況が進めば、政府の分科会の尾身茂会長ではないが、「今から中止を唱えても現実的な議論にならない」。専門家はそれでも提言で、無観客が望ましい、現行大規模イベントの開催基準より厳しく、観客は開催地住民に限定、感染拡大の予兆ある場合無観客を考えるべき、と政府、組織委に申し入れた。しかし、あれは一体どうなったか。「自主的研究」として黙殺されただけだった。


筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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