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五輪が浮き彫りにした「なし崩し」と「しぶしぶ受入れ」というこの国の通弊

国民に真摯に向き合わぬ政治 「対話の文化」の欠如が民主主義の成熟を妨げる

花田吉隆 元防衛大学校教授

全国民に我慢を強制し、命を左右する政府に自覚はあるのか

拡大居酒屋入り口に出された時短や休業を知らせる貼り紙。緊急事態宣言の再延長などで増え続けた=2021年5月、京都市
拡大全館が臨時休業となり、シャッターが閉まった地下街「ホワイティうめだ」=2021年4月25日、大阪市北区

 だが、五輪と「モリ、カケ、桜」は違う。五輪は、今まさに、全国民が我慢を強いられている中で有観客の大規模イベントを開催しようというものだ。

 緊急事態宣言発出の時、業者がいくら「完全な感染対策を講じている」と訴えても、その声は一顧だにされず一斉休業に追い込まれていった。飲食店は時短を余儀なくされ、酒類提供は一切禁止され、膨大な業者が廃業に追い込まれた。今、緊急事態が明け、まんえん防止等重点措置に移行したといっても、依然、酒類提供は夜7時まで、二人以内、90分などの厳しい制限下にある。それもこれも、感染拡大防止にはこれしか手がないと思うから国民は我慢を続けている。

 そういう中、果たして、海外から何万もの人が押し寄せる五輪は本当に感染拡大につながる危険はないのか、と誰もが思う。選手は「バブル」方式で一般国民と接しないようにするというが、ウガンダ選手団の例を見ると、本当にバブル方式が機能するのか疑念なしとしない。更に、それが大丈夫としても、観客を入れれば人流増につながるのは必定だ。実際、ここにきてそれを裏付けるデータも公表されてきた。

拡大東京五輪に出場するため成田空港に到着したウガンダの選手団。新型コロナウイルスのワクチン接種を済ませてきたが、陽性者が確認され、全員が濃厚接触者と判定された=2021年6月19日

国民の不安を解消する丁寧な説明が必須だ

 政府、組織委には、そういう国民の不安を解消する丁寧な説明が求められているのであり、これは「モリ、カケ、桜」方式で押し通し、「いつの間にかうやむやにすれば済む」問題ではない。新型コロナはそれこそ「国民の命と健康」に関わる問題だ。まさか、「大会が始まってしまえば、国民は、日本人選手の活躍に熱狂し、コロナの不安など消し飛んでしまう」などと、本気で考えているのではあるまい。

 「世論は移ろいやすい、国民は何やかや言っても、政府が押し切ればそのうち忘れ、別の関心事に移っていく」と、仮にも為政者が考えるとすれば、それは、民主主義をないがしろにする、あってはならない考えだ。しかし、「由らしむべし、知らしむべからず」は、残念ながら、この国では決して過去の旧習ではない。

対話文化の欠如 うやむやのまま結論が独り歩き

 結局、この国には「対話の文化」が欠如している。日本社会は長々と会議を繰り返し、対話をする風を装うが、その実、関係者間に本当の意味での対話が成立することはまれだ。

 対話が生産的になるには、対話の当事者双方が自らの意見をぶつけ合い、争点を明らかにしたうえで妥協点を探ることが重要だ。一方が他方に対し「真摯に向き合い」「妥協点を探る」意志を初めからもたなければ、対話など成立しようもない。うやむやの中に結論が独り歩きし、既成事実だけが積み重ねられていく。

 日本社会は、この種の「対話」がいたって苦手だ。「対立を徒に先鋭化させず、四方が丸く収まるよう着地点を探る」のは、村のもめ事を収めるには適しても、利害関係が錯綜する近代の政治には不向きだ。

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筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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