総じて評判が悪い夫婦同姓合憲判決。LGBTに対する見方も大きく異なり……
2021年07月03日
日本の最高裁が6月23日、夫婦同姓を定めた民法などの規定が憲法が定める「婚姻の自由」に違反しないと判断した。また、LGBTなど性的少数者をめぐる「理解増進」法案について、与党・自民党は前国会への提出見送りを決めた。日本のメディアも大きく報道したこれらの問題を欧米はどう見ているか。
夫婦同姓合憲は総じて評判が悪い。また、LGBTに対する見方も、欧米と日本とでは大きく異なる。
たとえば、「夫婦同姓」は合憲との最高裁判断に対し、英BBCは「1898年成立の民法で夫婦別姓を認めずとする男性が支配的な封建制度」の名残りと指摘した。他の海外の反響をみても、これと同様の批判が多い。
フランスの場合、結婚制度そのものが21世紀を迎えて大きく変化してきたこともあり、「夫婦別性」や「LGBT」が国会での審議の対象になっていることに、「今頃、なぜ?!」(仏記者)などと驚きの声が聞かれる。
フランスでは1999年11月、「市民連帯契約(PACS)」が成立した。成人2人が「結婚によらない共同生活を安定的かつ持続的に行うことを可能にした」制度で、これにより、結婚で得られる恩典を、結婚しなくても同様に享受できるようになった。日本同様、フランスでも独身者は住民税などの税金や社会保障の負担額が既婚者に比較して割高で、同居はしているものの“独身”のカップルを、既婚者と同等に扱うことで、制度面の不利をなくそうというのが目的だった。
当時、フランスでは働く女性が増えたこともあり、結婚しないカップルが急増。婚外児が新生児の過半数を超え、戸籍から「婚外児」の欄も消えた。ただ、同法の必要性を強く主張したのが同性愛グループだったため、同性愛反対のカトリック教徒らが猛反対したうえ、野党・右派政党や中道、さらに与党・社会党の一部が、「結婚制度の破壊」「法案成立で結婚しない傾向に拍車がかかる」などと反対したのを受け、約1千の修正案が提出されるなど、国民議会(下院)での審議は沸騰した。
その後、「成人の2人」が「同性、または異性の成人の2人」になり、レスビアンやゲイ同士のカップルも認められるようになった。2013年以降、同性同士の結婚が認められたからだ。
先述したように、日本ではLGBTなど性的少数者をめぐる「理解促進法案」ですら、自民党は国会への提出を諦めている。党内に根強い反対者がいるためだ。「夫婦別姓」も、自民党内に根強い反対者は「違憲」判決にホッとしたという。反対者の主張を要約すると、「家族制度の崩壊」ということになる。
だが、今の時代、そもそも「家族」とは何なのか?
たとえば、日本では2019年、約4500人が孤独死(厚生労働省)、認知症の行方不明者は延べ約8万7000人にのぼり、460人が死亡している(警視庁)。いずれも年々、増加傾向にあるという。
もちろん、手を尽くして何年も行方不明の身内を探す家族がいることは確かだ。孤独死の場合も、社会制度の不備など様々な理由が背後に隠されており、身内だけを責められないとは思う。しかし、日本で今、家族の絆が確実に薄くなっているのではないかと感じざるを得ない時がある。
フランスはどうだろうか。フランス人の友人を週末に自宅での夕食に招待しようとすると、「今度の日曜には両親(母、あるいは父の場合もある)が夕食にくるから残念ながらダメ」とか、「土曜は実家で夕食」「今度の終末は夫の実家に行く」などなどの返事が返ってくることが多い。週末は完全に「家族デー」だ。
夏の長期バカンスの季節になると、離婚したモト夫婦が新しい相手とそれぞれの子連れで田舎の一軒家などを借りて過ごすなど、「再生家族」が仲良くしている例も珍しくない。週末にモト夫が子供を迎えに来て、一緒に過ごす例は多い。
日本ではフランス人は「個人主義」などの通念があるが、これはまったくの誤解だ。むしろ、フランス人は「家族主義者」といえる。
日本が「ハーグ条約」(注)に加盟する以前、日本人の妻がフランス人の夫と離婚した場合、子どもの親権をめぐって様々な悲劇が起きた。フランスは離婚後も親権が父母の両方にある共同親権だが、日本では子供の親権は父母のどちらか一方に与えられるからだ(母親に与えられる場合が多い)。
注:国際的な子の奮取の民事上の側面に関する条約。国境を超えて子どもが不法に連れ去られたり、不法に留め置かれたりした場合の、子どもの返還手続きや面会交流について定める。1980年に成立。日本は2011年加盟、14年発効
ハーグ条約の存在を知らずに離婚した日本人妻が、夫に通告せずに無断で子供を連れて日本に帰国した場合、「誘拐罪」に問われても文句は言えないのだが、実際には、フランスからはるばるやってきた父親と子どもとの「面会」を拒否したり、日本的“潔癖さ”のゆえか、子どもあてに送られてきた誕生日やクリスマスのカードやプレゼントをすべて送り返したり、という例も珍しくなかった。
かくて、フランスをはじめ米英などで、「子どもに会いたい父親」による国際組織「SOSパパ」が誕生した。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください