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田中均が分析する「米中対立はどのような道筋をたどるのか」

今後30年の世界を左右する「牽制と抑止」「競争と排除」「相互依存と協力」の行方

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

「牽制と抑止」「競争と排除」「相互依存と協力」の三つの側面

 そのような背景の中で米中対立を具体的に見ていけば、三つの側面を持つことがわかる。

 まず、「牽制と抑止」だ。中国は東シナ海や南シナ海で拡張的行動をとっている。尖閣諸島への大量の漁船や中国公船の接近に対して「尖閣は日米安全保障条約の適用範囲」という累次の米国政権の表明は大きな抑止効果を持った。南シナ海の軍事化に対して米国が海軍艦艇を航行させる「航行の自由作戦」も一定の抑止効果を持つ。

 台湾に対する中国の経済的・軍事的圧力の強化に対して、日米安保体制が牽制と抑止の役割を果たしている。更に、香港での民主派の排除の動きや新疆ウイグル自治区の人権抑圧に対して米国などはそれぞれの当局者に対して制裁措置を導入しているが、中国は対抗措置をとるため反外国制裁法を制定しこれに抗していこうという構えだ。

 バイデン政権が重視している「インド太平洋」戦略やその中心的概念である「クアッド(日米豪印4者の枠組み)」は自由で開かれたインド太平洋という旗印の下で、中国の覇権的拡張主義を牽制し抑止しようという枠組みと考えられている。

 そして「競争と排除」だ。米国は経済関係において国家資本主義に基づく中国と、特にハイテク分野での競争を強化し、経済安全保障の名の下、中国を市場から排除していくアプローチを強めている。米上院は6月8日「米国イノベーション競争法」を超党派で可決したが、これは中国の影響力に対抗することを念頭に科学技術分野で2千億ドル以上を投資することをうたっている。

 さらに5G(第5世代)移動通信システムからのファーウェイの排除や米国の技術を使う半導体製造技術からの中国の排除、更には最近50を超える中国のテクノロジー・軍事関連企業に米国民の投資を禁止するなど貿易投資両面で規制を強めている。中国もサプライチェーンを見直し、半導体などハイテク素材の自国生産に拍車をかけている。

 それでも「相互依存と協力」の側面が決定的な米中対立を回避する役割を果たすのではないかと考えられる。

 米国から見れば中国は貿易総量でカナダやメキシコという隣国と並ぶ相手国であり、輸入に関してみれば最大の相手国だ。中国の税関当局の統計によれば2021年第一四半期(2021年1月―3月)に対米貿易額は前年同期から73.1%増となり群を抜いて最大の伸び率となっている。バイデン政権の強硬姿勢とは裏腹に、特に米国の中国からの輸入は米国のコロナからの経済的立ち直りとともに大きく増えている。更に米国は農産物の中国への輸出に大きく依存している。そして経済・貿易関係閣僚レベルの対話は維持されている。

 また、地球温暖化対策や北朝鮮非核化、イラン核合意問題などの解決は米中双方の戦略的利益であり米中の協力をどうしても必要としている。当然このような協力を進めていく対話は今後とも頻繁に行われていく事になるだろうし、信頼の醸成に繋がっていくだろう。

拡大気候変動サミットで中国の習近平国家主席が映し出された画面(右)を見る米国のバイデン大統領(左)=2021年4月22日、米国務省ウェブサイトの中継動画から

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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