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菅首相とバイデン大統領の差はここだ

「哲学、理念」をもたずに独我論に陥った人物への不安

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年6月11~13日に英国のコーンウォールで開催されたG7サミットに菅義偉首相が出席した姿を見て、多くの日本人はそのオドオドする様子に「情けなさ」のようなものを感じたのではないか。

 そうした想いをいだいていたころ、「小沢一郎が咆哮 菅政権は「日本の悲劇」だ」という記事を読む機会があった。そのなかで、小沢一郎衆院議員は菅に関する「ボキャ貧が致命的?」という質問に答えて、つぎのように語っている。

 「というより、トップリーダーとしての資質問題ではないか。自分の信念、哲学、理念をきちんと持っていないから何と言っていいかわからないんだと思う。オドオドした目つきで何も答えられない。国民が逆に不安を感じてしまう」

 たぶん、小沢のこの発言は政界で多くの政治家を品定めしてきた人の慧眼と言えるのではないか。とくに、G7サミットのような場では、政治家の「品格」のようなものが透けて見えてくる。ここでは、身内の「腐敗」に対する菅とジョー・バイデン大統領の対応の差を論じるなかで、菅の「本性」について論じてみたい。

拡大G7首脳会議。各国首脳との記念撮影を終え、笑顔を見せる菅義偉首相(中央)。前列左はバイデン米大統領、同右は議長のジョンソン英首相=2021年6月11日、英国・コーンウォール

“Dishonest Abe”の後継としての菅

 まず、菅が安倍晋三前首相の路線を引き継ぐ後継者であることを確認したい。そうであるならば、その安倍は海外からどうみられていたのか。Foreign Policyがまさに“Dishonest Abe”というタイトルの記事を掲載したのは2014年6月24日のことだ。ブルース・アッカーマン、イェール大学教授と松平徳仁神奈川大学法学部准教授の共著であった。

 「国際的な注目を集めているわけではないが、安倍晋三首相は国民投票で日本国民の支持を得ずに憲法の基本条項を廃止しようとする憲法上のクーデターを試みている」という点に不誠実さを強く感じたために、“Dishonest Abe”というタイトルになったと考えられる。

 その後、筆者が39年間欠かさず読みつづけているThe Economistでも、“Dishonest Abe”という表現が登場する。2017年9月30日付の電子版の記事「日本の首相は早期選挙の実施を後悔しているかもしれない」のなかで、“Dishonest Abe”という見出しが現れたのだ。

 なぜ安倍が「不誠実」かというと、14カ月も早く衆院選を行う理由が正直でないというのだ。すでに、拙稿「「安倍晋三は政治家にふさわしくない」と学校で教える必要性」で指摘したように、安倍は国会で嘘を並べ立て、森友・加計問題や桜を見る会事件で隠蔽を試みるなど、誠実さをまったくみせていないように思われる。こうした事情はすでに海外メディアも承知しており、安倍と言えば、“Dishonest(不正直な、誠意のない)”に加えて、“Liar(嘘つき)”という言葉がふさわしいくらいになっている(たとえば「「嘘つき」安倍の辞任を求めるデモが発生」というブルームバーグの報道)。

菅の「腐敗」疑惑

 こんな安倍の後継者である菅もまた海外からみると、薄汚れてみえてくるのかもしれない。その具体的な根拠となっているのが菅の長男正剛による「腐敗」疑惑である。

 菅は2021年2月22日の衆院予算委員会の集中審議で、長男が務める「東北新社」から総務省幹部が繰り返し接待を受けていた問題について、「私の長男が関係して、結果として公務員が倫理法に違反する行為をすることになった。このことについては心からおわびを申し上げ、大変に申し訳なく思います」と謝罪した(朝日新聞デジタル2021年2月22日付)。

 さらに、5月24日に東北新社が行った調査報告によると、総務省幹部ら13人と計54件の会食があり、すべて東北新社側が費用と負担したと認定した。加えて、2017年8月はじめに把握した同社の外資規制違反については、当時、総務省側に報告していたと認定するのが「合理的だ」とした(朝日新聞デジタル2021年5月24日付)。この調査は長男を含む東北新社幹部による総務省幹部への贈収賄を捜査する目的で行われたものではないが、接待する側に首相の長男がいて、接待される側に総務省幹部がいるという贈賄と収賄の刑事事件になってもおかしくない構図となっている。

 菅は当初、2月4日の衆院予算委員会で、「長男は別人格」として、長男が務める東北新社に対する総務省の通信行政が歪められたのではないかとの疑惑を否定した。しかし、すでに拙稿「PEP規制の重要性:無知ほど怖いものはない」で指摘したように、PEP(Politically Exposed Person)と呼ばれる「傑出した公的機能をもった自然人ないし直接的家族メンバー、あるいは、こうした人物の近しい仲間と知られている人物」に対しては、特別に厳しい倫理基準を適用することが欧米では常識化している。ゆえに、筆者は別の拙稿「ニッポン不全【9】無責任の連鎖――それは菅政権でも変わらない、いや深刻化している」でつぎのように指摘しておいた。

 「親族は腐敗にかかわる対象であり、菅父子の行動は国際的にみてPEPによる腐敗そのものということになる。国際的な視点からみると、『菅父子は腐敗している』のである。」

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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