藤原秀人(ふじわら・ひでひと) フリージャーナリスト
元朝日新聞記者。外報部員、香港特派員、北京特派員、論説委員などを経て、2004年から2008年まで中国総局長。その後、中国・アジア担当の編集委員、新潟総局長などを経て、2019年8月退社。2000年から1年間、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
台湾問題は譲らない 共同目標は祖国の完全統一 国民との一体感を強調
中国共産党が結党100年を迎えた。香港や台湾をめぐる問題で、欧米や日本との対立が顕著になる一方の中国。そのトップである習近平党総書記は記念式典でどんな演説をするか――。
世界中が注目するなか、1時間余りの演説をおこなった習総書記だが、「売られた喧嘩は買う」と言わんばかりの強気な発言が続いた。「民主主義陣営」との壁は高く、厚い。
共産党が記念日と定めた7月1日、「慶祝中国共産党成立100周年大会」が曇り空の北京で開かれた。習総書記は、結党時の党員だった毛沢東が中華人民共和国成立を宣言した同じ天安門楼上で、これまでの百年の歴史を讃え、次の百年の発展を誓った。
式典は中国時間午前8時(日本時間同9時)ごろから始まった。厳重な警備が敷かれるこのような政治的な大集会の参加者や取材者は、常に開会のずっと前に集合させられる。取材した米ニューヨーク・タイムズの記者は、会場から車で20分ほどにあるホテルで待機して午前3時に出発したと報じた。トイレに行くのも制限されたという。
式典には習氏ら現役の指導者に加えて、胡錦濤前総書記ら歴代の指導者も天安門楼上に並んだ。天安門前の広場には“共産党予備軍”にあたる共産主義青年団の若者や各界の代表、それに制服姿の軍人らが集まった。早朝から、人によっては過去に何度も予行演習をしたうえでの参加だが、「一生の名誉だ」と感激する人が少なくない。
私はインターネットのライブ中継を見た。楼上の指導者、長老だけでなく、広場の人たちのだれもマスクをしていないのに驚いた。屋外とはいえ、日本で推奨されているソーシャルディスタンス(社会的距離)は取られていない。新型コロナウイルスを克服したと誇示するかのようだった。
習総書記の演説は、手あかのついた表現が続き、げんなりとした。だが、米国や日本などから中国側へのけん制が続く台湾問題などでの発言には、怒りを含んだ強さを感じた。「いかなる人も中国人民の国家主権と領土を完全に守るという強固な決心、揺るがぬ意志、強大な能力を見くびってはならない」と力を込めて語ると、7万人あまりと発表された式典参加者から、ひときわ大きな拍手と歓声を受けた。
中国返還後も大陸に異を唱える香港の「言論の自由」を、欧米などの非難に抗して封じ込めた後、「次は台湾」とばかりの意気込みだ。式典で台湾の防空識別圏にたびたび進入する「殲10」戦闘機が編隊飛行したのが、台湾を意識しているようで、印象に残った。