経済成長が目的化し、国民を幸福にしなかったアベノミクスに代わる道
2021年07月05日
安倍前総理は政権運営にあたって株価や経済成長率をたいへん気にしていました。アベノミクスには「経済成長至上主義」という批判もありました(その割には経済成長率は高くありません)。
しかし、一国の宰相が気にすべきなのは、株価や経済成長率、GDPの規模ではなく、貧困と格差の状況を示すジニ係数や「世界幸福度調査」の指標だと私は思います。
言うまでもありませんが、経済成長は「手段」であって「目的」ではありません。アベノミクスは株価とGDP増加がそれ自体で「目的」になり、その結果として所得格差が広がり、国民の幸福度の向上に貢献しませんでした。
世界幸福度ランキングは、1位フィンランド、2位デンマーク、3位スイス、4位アイスランド、5位オランダと北欧諸国が上位を占めています。高福祉高負担の北欧諸国の幸福度が高いことは示唆的です。低福祉低負担の「小さな政府」よりも高福祉高負担の「大きな政府」の方が、国民が安心して暮らせて、幸せを感じやすいということだと思います。
橘木俊詔氏(京都女子大学客員教授、元京都大学教授)は次のように指摘します。
「特に幸福度が高いのは、フィンランド、デンマーク、ノルウェーなどの北欧諸国である。これらの国は福祉国家として有名であり、福祉制度、社会保障制度の充実ぶりが人々に安心感を与えており、それを高く評価していると考えてよい。重要なことは、北欧諸国については、福祉の充実は国民に多額の税・社会保険料の負担を強いるが、国民は負担はしてもそれへの見返りが大きいと、政府を信頼しているのである。」
負担に見合う見返りを実感できないのが日本の問題です。まずはベーシックサービス(医療、介護、障がい者福祉、保育、教育など)を充実させて、所得に関係なく誰もがベーシックサービスに平等にアクセスできるようにすることが、安心につながり幸福度を高めると思います。
安倍総理や菅総理は経済成長をめざしていますが、実は「どうすれば経済が成長するのか?」はいまだにわかっていません。長年の経済学者の研究でもわかっていません。と言うより「わからないことが、わかっている」と言えます。
私は学生時代に開発経済学を勉強して、東南アジアの経済発展が専門の指導教授のもとで卒論を書きました。「どうすれば経済が成長するのか?」あるいは「どうすれば貧困がなくなるのか?」について18歳の頃から勉強してきましたが、いまだにわかりません。
開発経済学に答えを見いだせず、発展途上国の貧困を解消するには、教育や保健医療の充実が先だと思って、大学院では教育政策専攻に転向しました(もっとも教育経済学も勉強したので完全に転向したわけでもありません)。
ノーベル経済学賞を2019年に受賞したアビジット・V・バナジー教授(マサチューセッツ工科大)、エステル・デュフロ教授(マサチューセッツ工科大)は著書で次のように指摘します。
「不幸なことだが、経済学者はなぜ成長するのかをわかっていないうえに、なぜ停滞する国としない国があるのか(韓国は成長し続けているのになぜメキシコはそうでないのか)も理解しておらず、停滞からどう脱け出すかもはっきりわかっていないのである。ただ一つ言えるのは、インドのような国や成長鈍化に直面している国にとって、遮二無二高度成長の維持を試みるのは非常に
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