小選挙区制の弊害是正へ「質の改革」が最優先。定数だけが問題ではない
2021年07月05日
総務省が6月25日に公表した2020年の国勢調査(速報値)に基づき、衆議院選挙は次々回から定数配分が大きく変わり、15都県に関して「10増10減」の定数是正が行われる見込みとなった。これは、過去3回の衆院選は1票の格差が2倍を超えている「違憲状態」とした最高裁判決に対応するためのものである。今後、衆議院議員選挙区画定審議会において具体的な区割りの作業が行われるので、この定数是正は今秋にも予定される次回の衆院選には間に合わず、次の次の選挙から実施される。
2019年の年末から2021年初頭までの1年余りの間に、3名の国会議員が逮捕され、このほかに1名が在宅起訴となったが、過去の事例と比べると、これは驚くべき数字である。これらはすべて自由民主党所属の議員であり、2名は閣僚経験者、1名は副大臣経験者である。また容疑は、選挙における大規模金銭買収、大臣室での現金収賄、カジノに関する収賄及び証人買収というように政治家として絶対に行ってはならない明白な犯罪である。
また、刑法上の罪には該当しないが、国民が不要不急の外出を自粛している中で、深夜まで銀座で飲食している議員(与党)や、ビザなし交流で北方領土訪問中に旧島民の神経を逆なでする暴言を吐いても悪びれない議員(野党)などは、国民の代表としての資格があるといえようか。
筆者は、中選挙区制にもそれなりの問題があり、小選挙区制と比較して一長一短であるので、直ちに中選挙区制に戻すことは支持できないが、現在の小選挙区制の仕組みには相当の改善が必要と痛感する。
その最大の問題点は、冒頭に書いたように現行の制度では、国民の代表として真にふさわしい人が選ばれない可能性、逆に言うとふさわしくないような人が選ばれる可能性が少なからずあるということである。
それは、支持政党の候補者は、党内の密室における協議により一人しか提示されないので、支持政党を主な基準として投票対象を決める場合には、選択肢が一つしかなくなり、その候補者が本当に議員にふさわしいか否かの判断を行いにくい。
1990年代に政治改革の一環として小選挙区制の導入が議論されたときに、この制度の難点として指摘されたのは、①候補者目線の立場から、1位になれなければ当選できないことであり、②有権者目線の立場からは、選択肢が狭く、しばしば支持したい候補者がいないことであった。
長期間にわたる討議の結果選択された救済策は、①の立場の候補者目線の救済であり、具体的には比例代表との重複立候補による惜敗率での復活当選の制度である。この復活当選制度は、小選挙区制を用いている世界の多くの国々の中でも日本だけが採用している「敗者復活制度」であり、後述の通り大きな弊害をもたらしている。
他方、小選挙区制導入に際し、前記②の難点は救済されなかった。この点に関し、有権者目線の候補者提示方法を実現するための有効な手段は、各主要政党が、候補者を決めるにあたり、党内の予備選挙を行うことである。
現在のように、党本部の選対責任者が密室で(必要に応じて当該都道府県の執行部との間で話し合いにより)候補者を一人に絞ることは、非民主主義的であり、最善の候補者が提示される保証はない。それに比して、米国などで広く実施されている主要政党内での予備選挙は、全党員が候補者選定に関与できるものであり、完璧な制度ではないとしても、民主主義により近い制度といえよう。
これは、名乗りをあげた6人について、同市在住の党員が投票し、党員投票40%、議員投票40%、世論調査票20%の比率で党の推薦候補者を決定する仕組みであった。この結果選出された候補者は、市長選挙において圧勝したが、党員の有権者は、執行部から一方的に提示された候補者ではなく、自らが予備選挙で選んだ候補者に投票出来た次第である。
なお、過去の自由民主党総裁選挙においても予備選挙は何度か行われたが、これは、党の候補者を直接決める選挙ではなく、都道府県ごとの獲得票数を決めるためのものであるので、いささか意味合いが異なる。
今秋までに行われる次回衆院選においては、いくつかの選挙区において自民党内で激しい公認争いが予想されている。具体例を挙げると、山口3区の自民党の公認候補者を、現職の河村建夫・元官房長官とするか、あるいは参議院議員からの鞍替えを狙う林芳正・元文部科学大臣にするかである。
現在の制度では党本部がそれを決めることとなり、河村元官房長官は78歳と高齢であるが、幹事長派閥の重鎮であるので、「現職尊重」の慣例により有利とみなされている。他方、林元文科相(農水相、防衛相なども歴任)は将来の総理候補と取りざたされており、県民の人気は根強いが、自民党の公認候補となれなければ、無所属での出馬の可能性が高いとみられている。また冒頭に掲げた衆議院定数の10増10減により、次々回の選挙からは、山口県の定数が1減となり、それに伴う区割りの変更が予想されるので、それに備えるためにも今回の公認争いは益々厳しいものとなる。
有権者の選択がこの派閥抗争によってねじ曲げられることを防ぐために有効な一つの方法が、党員による予備選挙の導入である。次々回の衆院選では、10の県において定数が一つ減少するので、公認争いは益々激化することが予想される。ついては、是非それまでには、主要政党の公認希望者が競合するすべて選挙区において予備選挙を実現するよう、関係者の努力を要請したい。
小選挙区制度を採用することにより不利となる少数政党の救済のために、比例区を併用することには一定の合理性がある。しかし理解できないことは、衆院選で小選挙区と比例区の重複立候補を認め、小選挙区で落選した候補者のかなりの数が比例区で救済されるという制度である。
小選挙区で落選した候補者は選挙民によって議員になることを否定されたわけであるが、それを惜敗率という一定の計算によって比例区で復活当選させることは、議員の立場のみを考慮した制度であり、民意を無視したものである。
前回の衆院選の比例近畿ブロックで実際に生じたケースであるが、97%の惜敗率の候補者が復活当選できずに、同じ政党で惜敗率32%(出馬した京都5区では何と5人の候補者の中で得票数は第4位)の候補者が、その政党での上位の順位付けにより復活当選したが、これはまったく理不尽なことである。
このような事態を防ぐためには、選挙区候補者の重複立候補は認めずに、比例区候補者は単独立候補のみとするか、百歩譲って重複立候補と一定の復活当選を認めるとしても、例えば、惜敗率90%以下の候補者は復活当選の資格なしとすべきではないかと考える。
戦後、何回も選挙制度の改革が実施されてきたが、「選挙で大事なのは、名前を知ってもらうことであり、政策を知ってもらうことは二の次」という時代錯誤的な発想が根本から消えないのがわが国の選挙の実態である。これは民度が低いといわれても仕方がない現実であり、政治家は、選挙民を見くびっていて、政策を説明しても理解してもらえないとでも思い込んでいるのであろうか。
いうまでもないことであるが、選挙民が投票の基準とすべきことは、その候補者を選べばどのような政策が実施されるかということである。すなわち選挙は公約同士の争い、すなわち「マニフェスト選挙」があるべき姿である。日本の選挙でよく使われる「最後のお願い」とか「どぶ板選挙」などという現象は、民主主義国家として恥ずかしい限りと言わざるを得ない。
筆者は40年余の国家公務員生活を通じて、数多くの国会議員の方々と仕事をする機会を持たせていただいた。その経験から、大多数の議員は、有能、誠実で尊敬できる方であったと断言できるが、冒頭に述べた議員逮捕劇を見ると、必ずしもそうばかりではない
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