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月探査と宇宙ステーションをめぐる中ロの宇宙開発協力

軍事に直結する技術開発

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年6月17日、3人の中国の宇宙飛行士を乗せた宇宙船「神舟12号」がゴビ砂漠から離陸し、中国の生まれたばかりの宇宙ステーション「天宮」にドッキングした。なぜか、日本のテレビがほとんど報じようとしない出来事であっても、宇宙空間における地政学という観点からみると、きわめて重要な第一歩と考えられる(この問題については、拙稿「宇宙空間の地政学」を参照)。

 これは、これまで宇宙開発を担ってきた、米国、ロシア、日本、カナダ、欧州宇宙機関(ESA)が協力して運営する「国際宇宙ステーション」(ISS)を凌駕するかたちで、中国が宇宙開発に乗り出すことを意味しているからだ。ここでは、中国の宇宙開発に積極的に協力することで存在感を示そうとしているロシアを含めた中ロの宇宙開発協力をめぐる諸問題について論じたい。

拡大2021年6月17日、中国の宇宙ステーションのコアモジュール天宮とドッキングする有人宇宙船神舟12号の3Dイラスト Shutterstock.com

ロシアはISSから撤退か

 2021年6月15日付のニューヨーク・タイムズ電子版に、「かつての宇宙大国ロシアは中国にミッションを託す:ロシアと中国は、月や小惑星への探査で協力することを約束しており、米国やそのパートナーとの新たな宇宙開発競争の舞台となっている」という興味深い記事が掲載された。

 記事によれば、「ロシア政府はすでに、国際宇宙ステーションから撤退する可能性を示唆しており、現在のパートナーとの契約が2024年に終了すると、国際宇宙ステーションから撤退することになる」。別の情報では、同月、ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモスのトップ、ドミトリー・ロゴジンはロシアの衛星打ち上げを妨げている宇宙分野への制裁をワシントンが解除しない限り、モスクワは2025年に国際宇宙ステーションから撤退するだろうと示唆したという。

 こうした背景には、ロスコスモスがISSに人や物資を輸送する競争で不利な状況にあることが考えられる。

 2011年にスペースシャトルの再使用型宇宙船の飛行計画が終了した後、ロスコスモスはISSへの有人飛行を長く独占してきた。しかし、2020年5月31日、米宇宙企業「スペースX」の新型有人宇宙船「クルー・ドラゴン」がISSへのドッキングに成功した。米国が自国の宇宙船でISSに宇宙飛行士を送り込んだのは、スペースシャトルの退役以来約9年ぶりの快挙となった。

 この時点で、「アメリカの航空宇宙局は、今後5年間で少なくとも12回のミッションをISSに送り、少なくとも50人をISSに送り込む予定であることが知られている」という状況にあった(エクスペルトを参照)。さらに、「2025年以降、米国連邦政府はISSへの資金提供を停止し、ISSの米国セグメントの運用は民間企業に委ねられることになる」から、輸送を担う競争が激化し、ロスコスモスは米国の民間企業に太刀打ちできなくなるのが確実な情勢となっていたことになる。

米国から排除された中国

 ここで、米中ロ間の宇宙開発の歴史について概観したい(下表を参照)。中国は2003年にはじめて有人宇宙飛行に成功したが、ISSへの招待を受けたことがない。2011年に立法化された、いわゆる「ウルフ修正案」に基づいて、スパイ活動の危険を理由に、米国航空宇宙局(NASA)が政府資金を利用して中国政府や中国系企業と直接的な協力関係を結ぶことが禁止されたことが要因だ。

 このため、中国は必要に迫られるかたちで、独自の宇宙ステーション開発に乗り出す。2011年と2016年に、ロシアから機材を購入して二つの臨時宇宙ステーションを建設に着手し、前述した「天宮」と呼ばれる三つ目の宇宙ステーションが11回の打ち上げを経て2022年に完成する予定となっている。その後、少なくとも10年間は地球を周回するように設計されている。

 注目されるのは、中国の宇宙ステーションでの中ロの協力だ。いまのところ、ロシアも中国も、「まだ宇宙ステーションでの共同作業を示唆していない」と、先のニューヨーク・タイムズ電子版の記事は指摘している。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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