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言語と性差をめぐる世界の潮流

日本語も着実に影響を受けている

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年6月7日付の日本経済新聞電子版に「「無印」衣料、半分が男女兼用に 多様な消費者に配慮」という記事が掲載されている。その書き出しはつぎのようになっている。

 「『無印良品』を展開する良品計画が来春にも衣料品の半分を男女兼用にする。兼用品で多様性への配慮を求める消費者の意識の高まりに対応するとともに、商品数を絞り込んで効率化にもつなげる。LGBT(性的少数者)など多様な消費者に配慮した取り組みは欧米企業が先行するが、国内市場でもアパレル各社が動き始めている。」

 ここでの衣料品の男女兼用という発想は、もちろん、利益に誘導されたものだが、LGBTといった多様な消費者への配慮にも動機づけられている。世界の潮流に敏感であれば、性差をめぐって男女の「距離」を縮めるような動きが衣料品にかぎらず、さまざまな分野で起きていることに気づくだろう。そこで、今回は、言語が性差をめぐって岐路に立っている現状について解説したいと思う。

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七つの言語の「ジェンダーニュートラル」への変化

 2019年12月15日付のワシントン・ポスト電子版は、「ジェンダーニュートラルな(性中立的)言語が世界でどのように発展しているかのガイド」という興味深い記事を掲載した。そこでは、「近年、LGBT活動家や言語学者らは、まったく新しい男女二者択一でない(非バイナリー)用語をつくったり、既存の単語や文法構造を再構築したりして、より包括的な言語を提唱している」と指摘されている。そこで、以下の七つの現状が説明されている。

①英語

 英語の文法では、男性的または女性的な単数形の代名詞を割り当てる以外は、性別を区別しない。そこで、「性自認が非バイナリーである単身者」に使う代名詞として“they”が使われるようになっている。2019年にMerriam-Webster辞書がこれを採用したほか、「その2年前の2017年には、ジャーナリストにとっての金字塔である「AP通信スタイルブック」に、性別を問わない形としての“they”が追加された」という。

 もちろん、この変更に批判的な人々は、単数形と複数形の両方としての“they”は混乱を招くとしている。ただ、ウィリアム・シェイクスピアといった多くの有名な英国作家は、「単数形の“they”と“their”を使っており、ビクトリア時代の文法学者が“he”を使うようになるまでは、英語の標準だった」という記述を読むと、目からうろこという気持ちになる。

②スペイン語

 スペイン語の場合、すべての名詞に女性格と男性格が付加されている。だが、スペイン語を話す人のなかには、そうする必要はないという考えの人もいる。そのため、Latino(男性)とLatina(女性)という二元的な表現ではなく、「Latinx」や「Latin@」という表現を目にするようになっている。ただし、「この形の使用が一般化したことで、一部のスペイン語話者は、この形がアメリカ英語話者によってスペイン語に押しつけられた形だけの言葉であり、内部からの包括的な動きではないと考え、怒りを覚えている」と、記事では書かれている。

 加えて、「教室や日常の会話のなかで、若者たちは話し方や書き方を変えている」という指摘もある。「男性的な“o”や女性的な“a”を、特定の単語では性別に関係のない“e”に置き換えて、深くジェンダー化された文化を変えようとしている」動きがあるのだ。

 もう一つ知っておくべき形として、ella(彼女)やél(彼)と並ぶ性別を問わない代名詞としての“elle”が使われていることが紹介されている。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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