勝者なき都議選の歴史的意味~政権交代、自民復権、新党の次に吹く風は世代交代?
政治の混沌を終息させ秩序を再構築するべき時期に期待されるのは……
曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)
確かな風の向きが感じられない選挙だった。
今月4日に投開票された東京都議選である。報道機関の情勢調査では自民、公明両党による与党の過半数獲得が予想されたものの、選挙当日の出口調査では自民党の失速があらわになり、事実、そうなった。
「バッファー」投票の可能性も
自民党の鴨下一郎・東京都連会長は開票途中の同日夜、東京MXテレビの番組で「今回の選挙は誰が勝利者というのはない」と語った。あながち負け惜しみというわけでもなかろう。
自民党はぎりぎり第一党の座を都民ファーストから奪還はしたが、最低限の目標とした「与党で過半数」には届かなかった。事前の予想に比べて都民ファーストは善戦したものの、前回よりも10議席以上も減らしている。
8から15へと議席を倍増させた立憲民主党も、自民、都民ファースト、公明、共産に次ぐ第5党にとどまる。衆院選で過半数を得て政権交代を果たすと訴えてきた経緯からすれば、一定の橋頭堡(きょうとうほ)は築いたとはいえ、完勝ではあるまい。
朝日新聞の出口調査によると、「支持政党なし」と答えた無党派層の投票先は都民ファースト25%、共産16%、自民と立憲民主共に15%の順である。この分散傾向を見れば、無党派層が事前予想に反応して強大な権力の誕生を強く牽制する、いわば「バッファー」の投票行動を起こした可能性はあるだろう。

自民党本部の開票センターで当選が確実となった候補者の名前に花を飾る鴨下一郎・同党東京都連会長(右)と丸川珠代五輪相=2021年7月4日、東京・永田町
過去の都議選で吹いた「三様の風」
首都決戦である都議選はこれまで、直後の国政選挙に多大なる影響を及ぼす前哨戦だった。もっと言えば、次の政治の変化を事前告知する「風」が観測出来る選挙であった。
それは、過去3回の都議選を振り返れば分かる。
2009年は民主党が吹かせた「政権交代」の風だった。初めて自民党にとって代わって第一党となり、続く衆院選で麻生太郎自公連立政権を相手に政権交代を成就する跳躍台となった。
2013年は「自民党復権」の風だった。前年末の衆院選で返り咲いた安倍晋三自公連立政権のもと、民主党を大敗させて第一党に復帰。直後の参院選で衆参のねじれの解消と「一強」体制の構築へ進むステップとなった。
そして、2017年の風は「新党」だった。直前の小池百合子都知事誕生の余勢をかって、都民ファーストが小池氏を担ぐ新党として登場。自民党を惨敗させて第1党に躍り出たうえ、直後の衆院選に向け新党・希望の党結成へと進んだ。結果的に、参加希望者に政策上の踏み絵を迫る「排除の論理」が反発を呼んで失速したが、中央政界では一時、「小池首相」誕生の可能性さえ取り沙汰された。