自由への妨害を許さないのが《公》の役割のはず
2021年07月16日
東京・大阪・名古屋で開催予定となっていた「表現の不自由展」が3か所ともそれぞれ悪質な妨害を受け、開催困難な状態に陥っている。
2021年6月25日から東京・新宿区のギャラリーで開催される予定となっていた企画展「表現の不自由展・その後 TOKYO EDITION+特別展」は、会場に対する嫌がらせ妨害のために会場を変更せざるを得なくなり、新たな会場探しに難航していると報じられている。
筆者は東京での妨害者の音声を録音した音源を一部、聴くことができたが、「死ね」「殺す」「ガソリン持ってお邪魔する」などの明らかな脅迫の言葉は聞き取れなかったものの、路上から「(展示を)やめろ」という怒声が繰り返されていた。
すでに決まっている作品展示に対して「やめろ」と命令口調で執拗に叫んで継続できない状態に追い込むことは、業務妨害にも強要にもあたる。またこのギャラリーはオーナーの自宅と一体化した建物の中にあるため、これらの嫌がらせは被害者の「平穏生活権」も侵害している。
大阪市内で7月16日から予定されている「表現の不自由展・かんさい」では、会場の「エル・おおさか」の職員に対して妨害的な抗議が起きたため、会場使用許可が取り消された。
この会場は大阪府の管理する「公の施設」にあたる。企画展の主催者は大阪地裁にこの処分の取り消しを求め、大阪地裁はこれを受けて、施設側の処分の効力を停止するとの決定を出した(「表現の不自由展」会場使用認める決定 大阪地裁=2021年7月9日、同)。
これに対しては、会場側が即時抗告した。
企画展は16日から18日の間、この会場で開催されることとなったが、そこに「実力で阻止する」「施設の破壊、人的攻撃に向かう」などと書かれた脅迫文や不審物が送られてきたため、警察が厳戒態勢で警備を行っているという(7月15日正午現在)。
まるで大阪地裁決定を見た上での行動ではないかと思える内容とタイミングだ。
各地の実行委員会は、企画展を継続する意思を明らかにしている。
一連の企画展は、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で抗議が殺到した企画展「表現の不自由展・その後」を再構成した内容だというが、このような状況であるため、筆者はどの企画展も見ることができずにいる。
この問題は、新聞各紙でも大きく取り上げられている。
筆者も、朝日新聞の以下の記事にコメントを提供した。「表現の自由」には批判の自由が含まれるにしても、このような妨害行為は「批判」とは異なる暴力であって、「表現の自由」によって擁護しようのないものだ、というのが筆者の見解である(「政争の具」危機感 混迷の「表現の不自由展」に作家は=2021年7月6日、朝日新聞デジタル)。
「表現の自由」で擁護しようのない妨害行為によって、本来予定されている行事が継続不能に追い込まれているというとき、この妨害を止めて本来の行事の進行を守るのが《公》の仕事である。今回クローズアップされた「公の施設」も、警察も、それぞれの立場でその職責を担っている。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください