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ロシアと東京五輪の「猫だまし」

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番を聴くたびに思い出してほしいこと

塩原俊彦 高知大学准教授

 東京の五輪会場に、何回ピョートル・チャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番(変ロ長調)が流れることになるだろうか。

 ロシアのタス通信は2021年4月、国際オリンピック委員会(IOC)が東京および北京オリンピックのロシア選手団が参加する儀典伴奏曲として、ピョートル・チャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番を承認したと伝えた。つまり、ロシア選手が金メダルを獲得した場合、国旗掲揚時に、ロシア国歌ではなく、チャイコフスキーのこの曲が流れることになる。

 その理由には、やや複雑な経緯がある。世界反ドーピング機構(WADA)が委託した2015年の報告書で、ロシアによる「国家ぐるみ」のドーピングが明らかになり、ロシアは国際大会から3年間排除される処分を受けた。WADAは2018年9年に処分解除を決定したが、その解除条件が検査所データの全面提供だった。しかし、WADAはそのデータに改竄があったと認め、2019年12月9日、WADAの常任理事会は、ロシアの国家ぐるみのモスクワドーピング検査所のデータベースの「書き換え」に対する制裁として、4年間、主要なスポーツ大会へのロシアの国家としての参加を禁止した。これに対して、ウラジーミル・プーチン大統領は反発し、五輪憲章違反であるとしてスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴し、2020年12月になって、禁止期間が半減されたのである。

 ロシア選手は、オリンピック・パラリンピック競技大会や、WADAの参加する世界選手権への国旗をつけての参加が禁止され、ロシア国旗や紋章などの国のシンボルをあしらったユニフォームの使用も禁止されている。国歌の演奏も認められていない。国旗については、2018年平昌冬季大会のようにオリンピックリングをあしらった中立国旗ではなく、ロシアオリンピック委員会旗で代替する。

政治に翻弄されるIOC

 商魂に毒されているIOCは、とんでもない国に対する制裁を緩めることで、スポンサーに媚びを売っている。どこの国の選手であっても、参加者を増やして五輪を盛り上げることがスポンサーを喜ばせることにつながる。あるいは、何も知らない大衆を楽しませることにもなる。ゆえに、IOCは、国家ぐるみでドーピングを行うだけでなく、検査データの改竄までしていたロシアのような国に対してさえ、その制裁をズルズルと緩和してきた。

 最初の制裁期間中の2018年の平昌冬季五輪では、ロシア選手が五輪旗と「Olympic Athlete from Russia」の称号を掲げて開会式を行進した。薄いグレーのコート、白いマフラーや帽子、ブルージーンズを着用し、赤、白、青の大胆な衣装を身にまとった普段の服装とは一線を画すものだった。

 だが、東京五輪では、「スポーツ仲裁裁判所はロシアにいくつかの小さな勝利を認めた」と、ワシントン・ポスト電子版は伝えている。ロシアのナショナルカラーの使用が認められ、ユニフォームを見れば、ロシアと簡単に想像できるようになったのである(下の写真を参照)。なぜこんな緩和を認めたのかについては、納得のできる説明はない。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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