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太陽光発電に潜む罠

包括的な戦略が急務だ

塩原俊彦 高知大学准教授

 静岡県熱海市伊豆山地区を流れ下った土石流のなかには、太陽光発電のためのソーラーパネル(太陽電池モジュール)が大量に含まれている。太陽光発電と言えば、再生可能エネルギーの代表格としての表の顔ばかりが目立つ。だが、ソーラーパネル設置が森林の保水力を奪い、土砂災害を招くといった裏面があることが一部ではよく知られている。ここでは、太陽光発電に潜む罠として、主にソーラーパネルの廃棄問題を取り上げる。

 『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された論文「太陽光発電のダークサイド」は、小泉進次郎環境大臣が読むべき興味深い内容になっている。ソーラーパネルの廃棄物の急増が予想されており、早急に対策を講じる必要があるというのだ。それだけではない。毎日新聞デジタルには、「全国で公害化する太陽光発電 出現した黒い山、田んぼは埋まった」という記事が公表されている。ここでも、太陽光発電が再生可能エネルギーとしてもつ「表の顔」ばかりでなく、環境汚染をばら撒いている「裏の顔」があることが注意喚起されている。そこで、太陽光発電に絡む「裏面」について考えてみることにした。

論文「太陽光発電のダークサイド」

 再生可能エネルギー(太陽、風力、バイオマス、地熱、水力、海洋利用など)の普及および持続可能な利用の促進を目的として2011年に正式に設立されたのが国際再生可能エネルギー機関(IRENA)である。

 このIRENAが2016年に公表した報告書では、2050年までの太陽光発電パネルの廃棄物量が世界ではじめて予測されており、ソーラーパネルの寿命を30年と仮定し、故障などの早期損失がない場合(レギュラー・ロス)と、30年の寿命を迎える前の初期故障、中期故障、消耗品を考慮した場合(早期ロス)の二つが示された。

 下図からわかるように、前者の場合には、2050年に6000万トン、後者の場合には7800万トンもの廃棄物が出る計算になる。ただし、いずれのケースでも、顧客がパネルを30年のライフサイクルの間ずっと使い続けることを前提としており、早期交換が広く行われる可能性は考慮されていない。

拡大図 2050年までの太陽光発電パネルの廃棄物量予測
(出所)END-OF-LIFE MANAGEMENT: Solar Photovoltaic Panels, IRENA , 2016, p. 12

 実際には、パネルが早期に交換され、このIRENAの想定よりもずっと早くパネル廃棄物の急増が見込まれると、論文「太陽光発電のダークサイド」は主張している。なぜかというと、買い替えの意志決定に影響をおよぼす、①パネルの設置価格、②補償率(送電網に販売される太陽エネルギーの相場)、③モジュール効率のうち、②と③が十分に高くなると予測可能であれば、既存のパネルが30年間使用可能かどうかにかかわらず、合理的な消費者は買い替えを行うと考えられるからである。

買い替えの具体的スキーム

 そこで、論文に例示されている内容を紹介しよう。たとえば、2011年に自宅にソーラーパネルを設置したカリフォルニア在住の仮想的な消費者(「ブラウンさん」と呼ぶ)を想定する。

 ブラウンさんは、2011年に自宅にソーラーパネルを設置し、理論的には30年間、つまり2041年までパネルを使い続けることができる。設置時の総費用は4万800ドルで、そのうち30%はソーラー投資減税により税額控除された。ブラウンさんの場合、2011年には1万2000キロワットの発電量、つまり約2100ドル分の電力が期待できる。翌年には、モジュールの劣化により、パネルの効率が約1%低下する。

 2026年、機器の耐用年数の半分を過ぎたころ、ブラウンさんは再び太陽光発電の選択肢を検討しはじめたとする。ブラウンさんは、最新世代のパネルはより安く、より効率的だと聞いていたが、実際に調べてみるとその通りだった。現在の予測では、2026年のブラウンさんは、ソーラーパネルの購入と設置にかかる費用が、2011年に比べて70%も減少していることがわかった。さらに、新世代のパネルでは年間2800ドルの収益が得られるという。

 つまり、あと15年待つよりも、今、パネルをアップグレードした方が、2011年のドル換算で、彼女の太陽光発電装置のNPV(正味の現在価値)が3000ドル以上増加することになる。ブラウンさんが合理的な行動者であれば、早めの買い替えを選択するだろう。ブラウンさんのシナリオで計算すると、2021年から交換のNPVがパネル保持のNPVを上回ることになる。

 この予測に基づいて早期交換が実施される場合、「わずか4年間でIRENAの予測の50倍もの廃棄物が発生する可能性がある」と、論文は結論づけている。この数字は、「1メガワットあたりの重量・出力比を90トンと見積もった場合、約31万5000トンの廃棄物に相当する」という。しかも、この分析は住宅用に限られているため、これらの統計は危機を完全には表していない。商業用や工業用のパネルを加えれば、交換の規模ははるかに大きくなる可能性があり、廃棄物量もずっと膨らむだろう。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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