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税金をドブに捨てた?「ココア」(COCOA)

英国のアプリとこれだけの差と違い

塩原俊彦 高知大学准教授

 2020年6月、当時の安倍晋三首相が「クラスター(感染者集団)対策を強化する鍵」と位置づけて導入したのが新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA, ココア)であった。導入から1年以上が経過したにもかかわらず、ココアが感染者の発見に威力を発揮したとの客観的なデータを目にしたことはない。

 これに対して、英国のイングランドとウェールズの住民を対象とした国民健康保険サービス(NHS)のCOVID-19アプリについては、「アプリの開発と展開を継続することを支持するものである」との科学的知見が学術誌「ネイチャー」に掲載されている。

 ここでは、英国のアプリと日本のアプリを比較しながら、厚生労働省が約3億9000万円の随意契約のもとに開発したココアの問題点を明らかにしたい。そのうえで、利用者とアプリ提供者との間の「信頼」構築の重要性を強調したいと思う。

情報開示に日英の差

 まず愕然とするのは、日英における情報開示の差である。2021年7月16日付のワシントン・ポスト電子版によると、「英国の雇用主が懸念を高めているのは、1週間に50万人以上が政府の接触追跡アプリで新型コロナウイルスに感染した可能性があり、最大10日間自宅待機するようと通知された(be pinged)ことから、「ピンデミック」がこの夏に大きな経済的混乱を引き起こすことだ」という。

 これが意味しているのは、英国では接触追跡アプリが十分に機能しているということだ。NHSは毎週、①アプリのダウンロード数、②QRコード保有者数、③QRコード保有者による同コードを使った会場でのチェックイン、④会場アラートの送信数、⑤接触追跡アラートの送信、⑥アプリユーザーが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一つ以上の症状をアプリに報告した件数、⑦アプリにリンクされた検査結果件数(公開されたデータには、結果が自動的にアプリにリンクされる、アプリを通じて予約されたテストと、ユーザーがコードを使って手動でアプリにリンクする、アプリ外で予約されたテストが含まれる)――を公開している(NHSのサイトを参照)。

 7月1日から7日間にNHSがイングランドの住民に送信した「曝露通知」(濃厚接触者として感染が疑われるという通知)は52万194件で、前週から46%増加した(下図を参照)。アプリをこれまでにダウンロードした累計回数はイングランドとウェールズの合計で2652万3853回にのぼるが、「過去に英国でウイルスが流行した際には、それほど広く使用されていなかった」と、前述の記事は指摘している。7月16日の英国での新たな感染者数は5万1870人にのぼっており、改めてアプリへの関心が高まっていることがしっかりした情報公開によって裏づけられている。

 これに対して、日本の厚労省は下図のように月次ベースと直近5週ベースのココアのダウンロード数と陽性登録件数しか公表していない。ココアは、英国のアプリでは可能な、会場に入る際にQRコードをかざして登録し、その会場で感染者が出た場合にも対応できるというサービスを提供していないが、それを差し引いても不十分な情報開示しかしていないことがわかる。その結果、ココア利用者のうち、実際に接触可能性のアラートを受け取ったのは何人かというもっとも重大な結果がまったく公表されていないのだ。アラートを受け取った人のうち、何人が検査を受けたのかもわからない。

 もちろん、わずかに公表されている「陽性登録件数」をみれば、直近でも累計約2900件にすぎないから、ココアがほんのわずかしか濃厚接触の可能性を通知していないことは容易に想像できる。第五波と呼ばれる感染者急増にもかかわらず、陽性登録件数がそれほど増えていないところに、ココアの失敗の証拠が示されているのかもしれない。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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