大野博人(おおの・ひろひと) 元新聞記者
朝日新聞でパリ、ロンドンの特派員、論説主幹、編集委員などを務め、コラム「日曜に想う」を担当。2020年春に退社。長野県に移住し家事をもっぱらとする生活。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
間違い続きの「現実的」選択、それでも「負けるが勝ち」の強弁
第2次大戦で日本が降伏した翌日、生徒を集めてこう言い放った教師がいたそうだ。
「負けるが勝ちということもある」
北杜夫の「どくとるマンボウ青春記」に出てくる。
終戦前から戦後の旧制松本高校などが舞台。激変する時代の若者や教師の日々を生き生きと描いた名作である。
この話を思い出したのは、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長の言葉が重なったからだ。緊急事態宣言下での五輪開催について会見でその意味を語っている。
「コロナ禍という大きな課題に直面する中においても、開催をすることができるということも一つ大きなレガシーになっていくんだというふうに理解をしている」
菅義偉首相は「人類がウイルスに打ち勝った証し」としての東京五輪と言い続けた。どうしても勝ったことにしないといけないという苦し紛れが橋本会長の言葉ににじむ。
緊急事態宣言下、無観客で五輪開催という無残な事態が「レガシー」になる!
敗戦翌日の教師の論法にそっくりだ。
言った本人も切なかろう。