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あまりにお粗末な東京五輪コロナ対策やワクチン接種 官僚機構にいったい何が?

危機時への対応の弱さを露呈した日本の“頭脳”にひそむ構造的な問題点とは……

岸本周平 国民民主党衆院議員

 東京五輪・パラリンピックが開幕します。しかし、この「スポーツの祭典」に水をかけるかのように、新型コロナウイルス感染症の「第5波」が東京を中心とする首都圏や大阪を襲っており、東京都は開幕前日の22日、新型コロナウイルスの感染者が新たに1979人報告されたと発表しました。

危うい対応が目立つコロナ感染防止対策

 世界的なコロナ感染のただ中での開催となった東京五輪・パラリンピック。当然ながら、周到な感染防止対策が求められましたが、これまでの経緯を見ると、会場内での酒類の販売で二転三転したり、いわゆる「バブル方式」の不完全さが指摘されたり、ルールブックが五輪関係者に守られない状況になったり、危うい対応が目につきます。

 来日した選手団からもコロナ陽性患者が次々と出ていますし、五輪関係者では数十人の規模に膨れ上がっています。その濃厚接触者の扱いも不透明で、選手に対しても6時間以内のPCR検査で陰性なら出場を認めるなど、これまでの国際大会とは異なる緩い基準に変更されました。首都圏を中心に試合は無観客で行われますが、多くの国民は不安に感じています。

開会式を待つ国立競技場=2021年7月21日、東京都新宿区

ワクチン接種をめぐり混乱する現場

 欧米先進国に比べて数か月出遅れたワクチン接種は、現場の踏ん張りで徐々に進んできましたが、モデルナのワクチンを使う職域接種の受け付けをめぐって混乱が生じたり、自治体向けのファイザーのワクチンの供給量が自治体の希望量に追いつかなかったりで、ここにきて現場も混乱しています。

 モデルナ社の5000万回分のワクチンは、6月末までに4000万回、9月末までに1000万回の供給契約でしたが、実際には、6月末までに約3分の1の1370万回分しか入りませんでした。6月8日から受付けの始まった職域接種が本格的にスタートしたのは6月21日、しかし、ワクチン不足で25日には職域接種の受付を一時休止することになりました。

 この間、ワクチン担当の河野太郎行政改革担当相は職域接種の呼びかけを積極的に行いましたが、ワクチンの供給量が減ることは4月末の段階で政府にはわかっていたとのこと。まったく信じられません。

 6月末までに職域接種の希望は約3700万回分、自治体の集団接種の希望は約2400万回分。しかたなく、自治体にはファイザー社製のワクチン1200万回分を振り分けることに。その結果、7月から供給が減らされるファイザー社製のワクチン供給がさらにタイトになりました。

 ファイザー社製のワクチンは、6月までは2週間で1870万回分供給されていましたが、7月、8月は約1200万回分程度に減少します。7月19日から供給予定のワクチンは自治体の希望量の3分の1。自治体では、新規予約を停止せざるを得ないところもあり、個別接種の病院現場も混乱しています。

 たとえば、筆者の選挙区である和歌山市では、7月26日からの週には、1回目接種の予約を3割抑制することになりました。さらに、8月9日の週からは5割も抑制せざるをえない状況です。

全体像を把握せずに「接種急げ」の号令

 政府は、自治体に対し、在庫がまだ4000万回分あるからワクチン接種に影響はないと説明していましたが、現場からは、ワクチン接種記録システム(VRS)への入力の遅れや、そもそも2回目の接種用は不可欠で在庫にカウントされないとの反発が起こり、河野大臣が陳謝する事態になりました。

 政府は、市区町村ごとの接種率データを都道府県と共有し、都道府県の独自枠を全体1割の数量を確保することを決め、8月から運用することになりました。裏を返せば、これまでは需要と供給の全体像を政府が把握せず、ひたすら「ワクチン接種を急げ」と号令をかけていたわけです。ほんとうに驚きです。日本の官僚システムがここまで劣化しているとは思いませんでした。

新型コロナウイルスワクチンの接種中止を知らせる医療機関の貼り紙=2021年7月16日、大阪市内

霞ケ関は日本の“頭脳”のはずなのに……

 日本の“頭脳”のはずの霞が関でいったい何が起きているのでしょうか。懸念は募る一方です。

 国全体で緊急にワクチン接種が必要な場合、ワクチンの開発スピード、認可のタイミング、供給量と需要のバランス、配送やワクチンの打ち手、会場の確保など、高度なロジステイクスが要求されます。「平時モード」から「危機的モード」に切り替えて全体のマネジメントをする必要があるのですが、その能力が霞が関にないことが今回、はからずも明らかになりました。

 もちろん、政治の側にも問題があります。菅義偉総理が「一日100万回の接種」を打上げたのは5月7日。実務的に積み上げた数字ではなく、トップダウンによる指示でした。しかも、ワクチン担当の河野大臣、配送、保管など実務を担う田村憲久厚労大臣、自治体との連絡役の武田良太総務大臣がそれぞれに指示を出し、まさに「船頭多くして船山に上る」状態になりました。「司令塔不在」と言われるゆえんです。

 そうだとしても、実務を担うプロである官僚の皆さんは、政治家の指示に対しても、できることとできないことについて、正確に伝えるべきです。最終的に責任を負って決める政治家が正しい判断ができるように支えてこその日本の頭脳です。現状は、政治家に言われるままに右往左往しているようにしか見えません。

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