花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
民の窮状に「寄り添う」のが政治 締め上げるだけでは国民はついてこない
西村康稔経済再生相が国民の猛反発を受け、コロナ感染対策についての発言を撤回し陳謝した。
西村氏に限らず、少し考えればおかしいと分かることが、国民の反発を受けるまで当人に理解できなかったという事例が、この国の責任者に相次ぐ。
例えば、東京都幹部は、感染再拡大の中で五輪のパブリックビューイングを開催するおかしさに気付けず進めようとした。五輪組織委幹部は、会場での酒類提供はあり得ないことと理解できなかった。菅政権は都議選の敗北を突きつけられるまで、有観客での五輪開催に問題ないとしていた。
それらの中でも、この度の西村氏の発言は、根深いものがある。
8日、政府が東京都への4度目の緊急事態宣言発出を発表したことに伴い、同日の記者会見で、酒類の提供自粛を求めても応じない飲食店に対し、金融機関や酒類の販売業者を通じて働きかけを強める方針を打ち出したわけだが、緊急事態宣言の効果を実効あらしめる措置として関係方面に事務連絡まで出していた。
西村氏の気持ちも分からないではない、との声も聞く。いくら要請しても守られない。東京の酒類提供はこれまで午後7時までとなっていたが、依然、7時以降提供の飲食店が4割に上るとの報道もある。要請をまじめに守っている者には不公平感が強く、何とかして「お上の威光」を響き渡らせたい、との西村氏の思いは分らないでもない、との指摘もある。
菅義偉総理も当初、西村氏は感染対策で頭が一杯なのだと擁護した。だからと言って、頭のキャパの限界を国民に押し付けられても国民は困るだけだが、そもそも、これだけ繰り返し「緊急事態」を出し、なお、国民に「改めて気を引き締めよ」とするところに無理があるともいえる。
国民にとり、常態化した「緊急事態」に最早何の新鮮味も感じられない。しかも、飲食店は路頭に迷うかどうかの瀬戸際に追い詰められている。給付金の支給は遅れに遅れ、生きるためには背に腹代えられない、との現実がある。
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