林芳正(はやし・よしまさ) 自民党参院議員
1961年生まれ。東京大学卒業後、三井物産、大蔵大臣秘書官などを経て1995年参院選で初当選。当選5回。山口選挙区。大蔵政務次官、防衛大臣、農林水産大臣、文部科学大臣などを歴任。著書に『やさしい金融・財政論』、『国会議員の仕事』
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「シーズ」が成果につながらない悪循環を断ち、新たな経済の方向性を示す
日本の経済を立て直す鍵は、やはり「モノづくり」にあると思います。これまで培ってきた技術力をもとに、コロナ禍で出遅れが露呈したITはもとより、2050年カーボンニュートラルを見据えてグリーン産業を育成していく。なかでもグリーンについては、日本自体の温室効果ガスの排出量削減にとどまらず、排出量が多い中国、アメリカ、インドなどに技術を提供することは可能だと思います。
ここ数年、私が問題だと感じているのは、日本が「潜在能力」をいかしきれていないことです。例えば、羽のない扇風機も元々の発想は東芝だったと言います。3Dプリンターもヒトゲノム計画も、日本はにつながらない。そうしたシーズに注目した海外の資本家が大きな投資をして、花が開くという例が目立ちます。
シーズもない、潜在能力もないというのならともかく、それだけのものをもっているのに、成果につながっていないとすれば、政策や制度で後押しをする必要があります。
その第一歩として、私もかかわって6月に自民党がまとめた「経済成長の基本的考え方及び成長戦略についての提言」に、スタートアップ企業を生み出し、その規模を拡大するための環境整備に関する提言を、幾つか盛り込みました。ウイズコロナ、ポストコロナの世界において、企業のダイナミズムを復活させる狙いがあります。
日本で、後に上場企業になるような会社が数多く生まれたのは、終戦の年である1945年からの10年間でした。それ以降、こうしたブームは今に至るまで起きていません。実際、起業から10年以内で評価額が10億以上、非上場の「ユニコーン企業」は現在、日本では少数にとどまり、アメリカと中国が世界の8割を占めています。
寿命が長い会社がたくさんあるのは、決して悪いことではありません。しかし、変化のスピードが速い世界では、前例踏襲や現状維持では対応できない。旧来の会社が内部改革を進め、社内からベンチャーを出すことに加え、スタートアップ企業が終戦直後の日本のように次々と生まれるという状況になってはじめて、日本の経済は勢いを取り戻すと思います。
そのためには、スタートアップ企業が創業しやすい環境をつくる。逆に言えば、それを妨げてきた環境を改めることが必要です。
例えば、日本のIPO(新規公開株)では初値が公開価格を大きく上回っていますが、これはアメリカ、ドイツ、イギリスと比べて非常に高い水準です。スタートアップ企業がより多くの資金を調達できるよう、公開価格を初値に近づくよう引き上げることが望ましい。
そこで、自民党の成長戦略の提言には、IPO取引の公開価格設定プロセスのあり方の実態を調査し、見直しを図ることを盛り込みました。
「モノづくり」の復活とともに大切なのは、昭和型の「成長」にかわる経済の新たな方向性を定めることです。かつて池田勇人首相が「所得倍増」を掲げ、経済大国を目指して実現したように、令和の日本が目指すべき「大きな枠組み」を示したい。
日本はこれまで、ひたすらGDPを増やすこと経済の目的としてきました。しかし、成熟社会になって、
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