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東京五輪で露呈したガバナンス不全~劣化した政治の刷新を託せる指導者像とは

日本の浮沈かかる秋の選挙 使命感とビジョンある人物の選択を

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

コロナ禍の開催に説明不足の政府 組織委は許されぬ言動続発

 1964年の東京五輪は日本の飛躍の踏み台だった。その年、日本はOECDに加盟して先進国入り、当時の経済成長率は11.7%だった。その数年後には世界第二の経済大国となった。それから57年後、コロナ禍での五輪開催で、私たちの目の前で展開されていったのは先進国らしからぬ姿だった。

 女性蔑視発言、開会式作曲家の過去の障害者虐待問題、開会式総合調整を担う者のホロコースト揶揄の過去など、いずれも現代社会では許されない言動だ。これらは人権に対する日本社会の意識の低さを表すととられかねないが、そのような人物を任命した組織委の責任は重い。また、五輪を主導してきた政府は国内の強い反対に対してコロナ禍での五輪の意義を説明し、説得に努力するべきだった。

 残念ながら五輪開催に至る過程で露呈しているのはガバナンス不全だ。どうすれば乗り越えられるのか。

拡大会見する東京五輪大会組織委員会の橋本聖子会長(中央)。左は武藤敏郎事務総長、右は高谷正哲スポークスパーソン=2021年7月20日

ガバナンス不全の根底は、民主主義無視の「3S政治」

 日本のガバナンスが不全である背景には政治の劣化がある。

 私は近年の政治の劣化を「説明せず、説得せず、責任をとらず」という民主主義の基本を無視する「3S政治」だと指摘している。政権にとり、説明せず、説得もする必要がなく、責任をとる必要もないことほど楽なことはない。

 森友問題では公文書の書き換えを命じられた職員の自殺に繋がった。桜を見る会の問題では不透明な招待の基準や招待名簿の廃棄、前夜祭の費用の問題などを巡り十分な説明が行われなかったのみか、国会での118回にわたる虚偽答弁も問題になったが、責任をとることもなく、結局はうやむやに終わっている。

 コロナ禍での五輪の開催については国民の多くが消極的だった。しかし、菅首相もコロナ対策やコロナ禍での五輪の意義についても明確な説明をしようとせず、ましてや国民を説得するという気配すら感じられなかった。そこで目に付くのは、失言を恐れるのか、防御的な姿勢のみだった。

 さらに、「五輪を主催する権限はIOCにある」と国内では繰り返し述べつつ、米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューでは「五輪を中止するのは簡単」と言う。「安全・安心の五輪にする」と言いつつ国民を安心させる具体策を示すこともなく、後手後手の対応に終始した。

 コロナ防御策についても4回にわたり緊急事態宣言を発し、何故宣言が効果を出さなかったか検証をすることもない。3S政治が常態化し、民主主義統治原則が崩れ、政府に対する国民の信頼感はどんどん薄れている。

拡大大会組織委員会が開いた「歓迎の夕べ」で会話する菅義偉首相とIOCのトーマス・バッハ会長=2021年7月18日、東京・赤坂の迎賓館、大会組織委提供

筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。 (Twitter@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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