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東京五輪で露呈したガバナンス不全~劣化した政治の刷新を託せる指導者像とは

日本の浮沈かかる秋の選挙 使命感とビジョンある人物の選択を

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

「官邸一強体制」―権力集中とチェック機能の喪失

 3S政治がまかり通るのは、権力が首相官邸に集中し、その権力をチェックする体制がないからだ。

 最近3回の衆議院選挙の都度、自民党は60%前後の圧倒的多数の議席を獲得してきた。そのような連続した選挙の勝利は安倍首相(当時)に強い力を与えた。また、小選挙区制に選挙制度が変わって以降、党総裁・幹事長が公認権や選挙資金配分の権限を持ち、自民党の中央集権化が進んだ。

 そのような強力な権力に支えられ、安倍首相は官邸への権力集中に取り組んだ。日銀総裁や法制局長官に自らの意向に忠実な人物を据え、いわゆる「官邸官僚」と言われる補佐官や秘書官などに事実上の政策調整権を与え、内閣人事局を創設し省庁の局審議官以上の人事を差配した。「官邸一強体制」の完成だ。その間、検事総長人事にも影響力を行使しようとしたが、それはならなかったのは幸いだ。

拡大2017年衆院選で、与党の自民・公明両党で定数の「3分の2」を維持する大勝を果たし、インタビューにこたえる自民党の安倍晋三総裁=2017年10月22日

自民党から多様性と競争原理が衰微、官僚は忖度横行

 従来、自民党はウイングの広い政党と言われ、リベラルから保守まで多様な政策の差異を有する派閥は首相の座をかけて厳しい競争を行い、結果的にできた政権は派閥の連立政権と言えるほど党内の競争関係を反映していた。そのような自民党においては、首相には常に他の派閥からのチェックが入り地位は容易に危うくなる。それが「官邸一強体制」の下では首相の意向は絶対的で自民党からのチェックの機能は働かなくなった。

 また、本来官僚は政権政党が変わっても政権党に仕える中立的な存在であり、官僚の本分はプロフェッショナルな見地から政権に提言をするところにあった。ところが内閣人事局の人事基準は必ずしも明らかではなく、首相に忠実な官僚を登用し、そうでない官僚ははじかれていくという傾向が強いと言われている。そうなると官僚は官邸の意向に忠実たろうとし、忖度がまかり通る。

 強い権力が問題だと言っているわけではない。毎年首相が変わっていくようなことでは日本はますます衰退する。他方、強い権力ほど私物化され、乱用される危険があるので、権力をチェックしバランスさせることが必要だ。そういう認識が重要ではないか。

拡大内閣人事局が発足し、看板かけをする、(左から)加藤勝信内閣人事局長、稲田朋美国家公務員制度相、安倍晋三首相、菅義偉官房長官=2014年5月30日

筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。 (Twitter@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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