山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
医療関係者などへのワクチン義務付けも表明。「自由、平等、博愛」に反するとデモも
大統領のコロナに関するラジオ・テレビ演説は7回目。コロナが猛威を奮っていた昨春には、「これは戦争だ」と宣言し、国民に挙国一致の覚悟を迫るなど、毎回、強い調子で国民にコロナ克服を訴えたが、今回は特にマナジリを上げて、まるで決戦に臨むかのようだった。日本の首相や官僚が、国民に「お願いします」とお願いする姿からすると、異常とも見える激しさだった。
大統領のこの威嚇的ともいえる演説は効果満点だった。午後8時から約30分の演説終了直後から夜半までのワクチン接種予約者は約90万。翌日には80万が接種し、15日までの3日間で予約は約200万に達した。それまで、「若いから感染しない」「感染しても大半が軽症」「ワクチンの副反応が怖い」「予約などが面倒」などの理由でワクチンを避けていた20代~40代が、「レストランに行きたい自由」「バカンスに出発したい自由」「映画やコンサートに行きたい自由」のために、ワクチン派に転向したからだ。
フランスのワクチン接種者は1回が国民の約59%、2回が約50%(7月末現在)。8月末までには5000万人(人口約6600万)が1回接種を済ます予定だ。
一方で、大統領の高圧的な「宣戦布告」に反発し、「反ワクチン」「反衛生パス」のデモが7月中旬の土曜日から始まった。ワクチンや衛生パスの義務化は「自由、平等、博愛」のフランスの国是に反するとし、デモでは「自由」の文字が踊り、三色旗がはためき、国歌「ラ・マルセイエーズ」が歌われた。
17日に全国で約10万人、24日に約16万人、31日は約20万人が参加。8月2日から5日にかけてもパリを中心にデモが展開される。2回目からは一部が暴徒化したため、31日には3000人の警官が出動、逮捕者も出た。
デモを呼びかけたのは、コロナのまん延で鳴りを潜めていた市民運動「黄色いベスト」と、「反マクロン」「反政府」の極左政党・服従しないフランスや極右政党・国民連合(RN)などの野党だ。ただ、デモの参加者の動機は様々で、必ずしも「反ワクチン」ではないようだ。
この機会に、物価上昇や一般的なマクロン政権への不満を表したい。あるいは、昨春以来の3回にわたる長期の「外出禁止令」や「夜間外出禁止令」で、蟄居(ちっきょ)生活を強いられたことによる心身の疲れや、バカンスに行く当てのない憂さを発散したいという人たち。あるいは、子連れで「散歩がわり」に参加したというカップルもいる。いずれにせよ、仏社会に鬱積していた種々の不満、不平が噴出した形だ。
「黄色いベスト」は2018年秋の誕生当時、燃料への課税値上げに反対した政治色が薄い市民運動だったが、次第に暴徒化した結果、国民の支持を失い、コロナ禍以前に少数を残して解散同然。今回のデモ参加者も「黄色いベスト」に賛同しているわけではない。
フランスのメディアが野党の動きとして注目しているのが、パリでの7月24日、31日のデモを先導したフロリアン・フィリポだ。
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