「2030年温室効果ガス46%削減」を前提に企業活動や国民生活をどう守るのか
2021年08月22日
国内外に課題が山積する今、政治はそうした課題にどう向き合い、解決すればいいか――。現役の国会議員が、それぞれ関心のある分野について、課題とその解決策について論じるシリーズ「国会議員、課題解決に挑む~自由民主党編」。今回は齋藤健衆院議員の論考です。
エネルギー政策をライフワークに掲げる齋藤健氏は、国の基であるエネルギーのあり方は経済や生活に多大な影響を与えるといい、2050年カーボンニュートラルをにらんで策定される次のエネルギー基本計画の中身はもとより、議論の進め方に警鐘を鳴らす。日本の国益に沿ったエネルギー政策はいかにつくられるべきか。コメント欄にぜひ、ご意見をお寄せください。(論座編集部)
◇齋藤議員からの一言です。本稿をお読みいただく前にご覧ください!(1分30秒)
社会人になった直後、通商産業省(当時)資源エネルギー庁総務課に配属されたのが、エネルギー政策に携わることの端緒であった。1983年のことである。初めて課長補佐になったのも同庁石油部で、初めて課長になったのも同庁の電力基盤整備課長であった。さらに、国会議員となり、初めて政府に入ったのも、エネルギー政策と表裏一体の環境大臣政務官であった。
エネルギー政策は、ライフワークとなった。
それにしても、エネルギー政策というのは実に厄介だ。長期的観点から講じていけねばならないものであるにもかかわらず、そのときどきの環境変化に即応もしなくてはならない。こういうことが頻繁に起こることが悩ましい。
昨今も、地球温暖化防止の観点から、2050年カーボンニュートラルが突如として打ち出され、2030年に向けたエネルギー基本計画の改定作業において即応しなくてはならなくなっている。
電力基盤整備課長という電力の需給問題、とりわけ供給面を担当している課長の経験者として、政府が打ち出している「2030年に温暖化ガス排出量を2013年比で46%削減する」との目標達成は、あと9年で本当に実現可能なのか、正直憂慮に堪えないものがある。原発の再稼働はままならぬ、石炭火力もできるだけ使うな、ということで、果たして需要に見合い、実行可能な電力供給の絵が描けるのだろうか。
この制約のもとでは、省エネによるエネルギー需要削減と再生可能エネルギー発電量のめいっぱい積み上げで対応するしかない。8月4日に示されたエネルギー基本計画案では、現行の省エネ目標量(5030万KL)を2割強上乗せして約6200万KLとしたうえで、再生エネルギーの比率を現行目標の22~24%から36~38%へ、発電目標として約1000億kWh追加(発電量は約3350~3570億kWh)している。
これを目標値との比較ではなく、実際の量と比較すると、2019年度の再生エネルギーによる発電量は全電源の18%で、発電量は1840億kWhだから、10年程度でほぼ倍増させるという目標である。2030年に実現できるのか、正直心許ない。
資源エネルギー庁の後輩たちは、政治判断としての総理の決断で国際公約としたこの46%削減目標を実現可能なものとするべく、相当苦労しているに違いない。計画案の中には、「各省の施策強化による最大限の新規案件形成を見込むことにより」「実現を目指す」再エネ導入量は、約3120億kWhと記載されており、目標達成にはさらに180~380億kWhの上のせが必要であり、さすがに自らこれは「野心的なもの」としている。
温暖化ガス削減への寄与で期待される水素についてみても、今から9年では社会実装まではこぎつけることが出来ても、電源構成の多くを占めることは困難だ。
それでは、原子力依存を上げればいいかと言えば、それも簡単にはいかない。東日本大震災から10年が経過しても、現在再稼働している原子力発電所は計10基でしかなく、目標値を現行目標(20~22%)に据え置いたものの、実現には全27基の稼働が必要だ。
石炭火力発電の削減は気候変動への対応の観点から当然だし、LNG火力発電については、46%削減目標を達成するためにも、また、原料を海外に依存しているというエネルギーセキュリティの面からも、増やすことは適当ではない。とはいえ、火力発電が国内の電力需要の変動に柔軟に対応する電源でもあることも確かで、電気の安定供給には欠かせない。
国民経済や国民生活に不可欠なエネルギー、なかでも電力の安定供給をどう維持するかの検討は、資源の少ない我が国が、持てる技術を活用してどう生き残っていくかという作業でもあり、この視点を見失ってはならない。
実効性あるエネルギー基本計画の策定作業は、後輩たちの奮闘に期待するしかないが、ぎりぎり絵がかけたとして、結果としてエネルギーコストの上昇を招き、国内産業が耐え切れずに店じまいしたり、海外におさらばということになっては、経済産業省として言い訳はできない。この点の検証は、経済産業に責任を持つ経済産業省の一角を担う資源エネルギー庁としては、是非行わなければならない。
つまり、申し上げたいのは、2030年に温室効果ガスの46%削減を前提としたエネルギー基本計画が今秋にも策定された暁には、その結果、▼エネルギーコストがどうなるか、▼電力料金がどうなるか、▼経済成長にどういう影響を与えるか、▼雇用にどういう影響を与えるか、▼物価にどのような影響を与えるか――を明らかにすべき責任があるのではないか、ということである。
そして、経済や国民生活にかなりの影響が出ざるを得ない計画を策定する以上、一つのシナリオを決め打ちするのではなく、複数のシナリオを提示したうえで、国民的議論の下で選択するということも必要ではないか。
かつて、麻生太郎政権のもと、「1990年比で2020年までに温室効果ガスの排出を15%削減する」という目標を設定したことがあった。このときは、極めてオープンな場で大議論を重ね、自民党の本部では40回以上会合を開くこととなった。
また、政府は六つの選択肢を国民の皆さんに示した上で、最後に麻生総理がその中から一つを選択し、なぜその一つを取り上げるのかという理由について、さらに、目標設定に伴う影響分析まで、国民の皆さんに対して総理自身がテレビカメラの前で30分以上説明するという努力をした。
今回の2030年46%削減による企業活動や国民生活に与える影響は、おそらく、その比ではないものと推察される。それゆえ、今回もまた、国民的議論の下で決定されるということが極めて大事だと思われる。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください