日本の将来を決めるエネルギー基本計画 国益と生活を守るために必要な視点とは
「2030年温室効果ガス46%削減」を前提に企業活動や国民生活をどう守るのか
齋藤 健 自民党衆議院議員・元農水大臣
資源が少ない日本は持てる技術をどう活用するか
資源エネルギー庁の後輩たちは、政治判断としての総理の決断で国際公約としたこの46%削減目標を実現可能なものとするべく、相当苦労しているに違いない。計画案の中には、「各省の施策強化による最大限の新規案件形成を見込むことにより」「実現を目指す」再エネ導入量は、約3120億kWhと記載されており、目標達成にはさらに180~380億kWhの上のせが必要であり、さすがに自らこれは「野心的なもの」としている。
温暖化ガス削減への寄与で期待される水素についてみても、今から9年では社会実装まではこぎつけることが出来ても、電源構成の多くを占めることは困難だ。
それでは、原子力依存を上げればいいかと言えば、それも簡単にはいかない。東日本大震災から10年が経過しても、現在再稼働している原子力発電所は計10基でしかなく、目標値を現行目標(20~22%)に据え置いたものの、実現には全27基の稼働が必要だ。
石炭火力発電の削減は気候変動への対応の観点から当然だし、LNG火力発電については、46%削減目標を達成するためにも、また、原料を海外に依存しているというエネルギーセキュリティの面からも、増やすことは適当ではない。とはいえ、火力発電が国内の電力需要の変動に柔軟に対応する電源でもあることも確かで、電気の安定供給には欠かせない。
国民経済や国民生活に不可欠なエネルギー、なかでも電力の安定供給をどう維持するかの検討は、資源の少ない我が国が、持てる技術を活用してどう生き残っていくかという作業でもあり、この視点を見失ってはならない。

再生可能エネルギーとして期待される風力発電=2021年2月14日、兵庫県淡路市
基本計画が経済産業に与える影響の明示を
実効性あるエネルギー基本計画の策定作業は、後輩たちの奮闘に期待するしかないが、ぎりぎり絵がかけたとして、結果としてエネルギーコストの上昇を招き、国内産業が耐え切れずに店じまいしたり、海外におさらばということになっては、経済産業省として言い訳はできない。この点の検証は、経済産業に責任を持つ経済産業省の一角を担う資源エネルギー庁としては、是非行わなければならない。
つまり、申し上げたいのは、2030年に温室効果ガスの46%削減を前提としたエネルギー基本計画が今秋にも策定された暁には、その結果、▼エネルギーコストがどうなるか、▼電力料金がどうなるか、▼経済成長にどういう影響を与えるか、▼雇用にどういう影響を与えるか、▼物価にどのような影響を与えるか――を明らかにすべき責任があるのではないか、ということである。
そして、経済や国民生活にかなりの影響が出ざるを得ない計画を策定する以上、一つのシナリオを決め打ちするのではなく、複数のシナリオを提示したうえで、国民的議論の下で選択するということも必要ではないか。
参考になる麻生政権時代のやり方
かつて、麻生太郎政権のもと、「1990年比で2020年までに温室効果ガスの排出を15%削減する」という目標を設定したことがあった。このときは、極めてオープンな場で大議論を重ね、自民党の本部では40回以上会合を開くこととなった。
また、政府は六つの選択肢を国民の皆さんに示した上で、最後に麻生総理がその中から一つを選択し、なぜその一つを取り上げるのかという理由について、さらに、目標設定に伴う影響分析まで、国民の皆さんに対して総理自身がテレビカメラの前で30分以上説明するという努力をした。
今回の2030年46%削減による企業活動や国民生活に与える影響は、おそらく、その比ではないものと推察される。それゆえ、今回もまた、国民的議論の下で決定されるということが極めて大事だと思われる。
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