花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
次の総理に求められるのは、国民との対話を絶やさない姿勢だ
政府はまたも、緊急事態宣言での対応を強いられた。7月半ばから、東京都への4度目の発令に踏み切り、東京五輪を宣言下で開催。ところが感染状況は悪化の一途をたどったため、政府は東京と沖縄での宣言を延長するとともに、新たに4府県にも発令した。さらに、猛威は全国規模で広がり、まん延防止等重点措置の対象地域を拡大する事態となった。
これまでの1年半は単なる序章で、ついに「本番」が始まったかの如くだ。
本番の主役は紛れもなくデルタ株だ。このインド由来の変異ウイルスは、これまでのものより感染力や重症化リスクが極めて高いとする報告が各国の研究者から相次いでいる。単なる変異ではなく、新種のウイルスが発生したと考えるべきだ、とすら言う専門家もいる。
それほどのデルタ株の猛威だ。我々は、既にこの株の威力を目の当たりにしている。インドは、それまで比較的平穏に推移していたが、この株の出現でたちまち全土が医療崩壊の波に飲み込まれた。死者を火葬する場所にも事欠くほどだった。東南アジア諸国は、これまで感染封じ込めの優等生と目されてきたが、今やインドネシア等、世界の感染の中心に位置付けられている。
その猛威を振るうデルタ株がついに日本列島に上陸し始めた。我々が最も恐れるのは、事態がコントロール不能になることだ。感染が制御不能になれば、インドやインドネシアで起きたことは最早対岸の火事でない。デルタ株の蔓延は急速で、事態はあっという間に急展開する。我々は、その可能性を十分念頭に置いておかなければならない。
一部には、新規感染者数だけに目を奪われてはならない、との見方もある。高齢者のワクチン接種率が高まった結果、重症者の割合が抑えられている。都幹部は、「いたずらに不安を煽るべきでない」という。
しかし、新たに重症者の中心となった40代、50代は、今は中等症でもこれから重症化する危険は十分あるし、何より、これだけ感染者が増えればそのうちの一定割合で重症者が増えていくのは明らかだ。今、重症者が増えていないからといって安心できるものではない。医療現場の逼迫は日に日に増しており、入院先が見つからないケースも増えている。