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高校生だった私が入管問題で声を上げた理由~宮島ヨハナさんインタビュー

民主主義がフル活用されていない日本で、声を行使する意義

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

 名古屋入管に収容されていたウィシュマ・サンダマリさんの死をきっかけに、入管行政のあり方を問う声が広がりました。見逃せないのが、若者たちがその運動を担っていることです。
 9月から国際基督教大学(ICU)に進学する宮島ヨハナさん(19)もそのひとり。#JusticeForWishmaというハッシュタグをつくったり、抗議行動を呼びかけたりしてきた宮島さんにインタビューをすると、さまざまな印象深い言葉が返ってきました。たとえば、日本では民主主義がフル活用されていない。選挙権だけでなく声も行使しよう……。
 朝日新聞ポッドキャストにも近くご出演いただきますので、ぜひお聞きください。先に公開した「START」の学生メンバー、千種朋恵さん(20)のインタビューもお読みください。

Zoomでのインタビューに答える宮島ヨハナさんZoomでのインタビューに答える宮島ヨハナさん

 ――宮島さんは子どものころから、入管に収容され、仮放免(一時的に収容を解かれること)された人たちと接していたそうですね。

 父は牧師で、2009年から仮放免者の保証人をしているので、よく自宅に仮放免者がきて、いっしょに食事もしていました。バザーとかもちつき大会とか、教会のイベントにもよくきていたし、毎週、教会にこられるクリスチャンの方もいて、何人かとはけっこう親密なかかわりをしていましたね。

 ただ、小さいころは入管問題を知らなくて。今回、高校(インターナショナルスクール)の卒業論文を書くために調べていくうちに、入管の中で人権侵害が起こっていることを知りました。

英語を教えてもらった女性の死

 私はウィシュマさんのケースに似ていると思っているんですけど、今年1月、仮放免されていたレリンディス・マイさんという42歳のカメルーンの女性が乳がんで亡くなりました。私は小学6年生の時、インターナショナルスクールに入るため、数カ月間、マイさんに英語を教えてもらっていたんです。静かだけれどすごく優しい方で、乳がんと聞いてお祈りをしたりしていたのですが、亡くなってとてもショックを受けました。

 マイさんは2度目に入管に収容されていた2017年2月、面会に訪れた父に「胸が痛い。しこりが気になる」と話していました。けれど、入管内では適切な医療を受けられなかったようです。その後、仮放免されたものの、一時は住む場所も失い、ホームレスになっていました。そして、乳がんが悪化して亡くなった3時間後に、在留資格が認められたという通知が届いたのです。

 《注》 入管の施設に収容された人が仮放免されても、働くことは認められていないうえ、健康保険にも加入できない。このため、高額な医療費を支払うことが難しく、十分な医療を受けられないことが多い。

去来するいくつもの「もしも」

 もしも入管で適切な医療を受けられていたら、もしも在留資格がもっと早く届いていたら、マイさんはもっと長く生き、もっと幸せな人生を歩めていたかもしれない。人権を侵害しているし、不公平だなと思って。すごく衝撃的なできごとでした。

 英語を教わっていたころはマイさんのバックグラウンドも知らなかったんですけど、あとから調べてみたら、暴力的な婚約者と、女性性器切除の慣習から逃れるためにカメルーンを離れたそうです。日本にいるあいだに故郷の政治・社会情勢が悪化し、何度も難民申請をしたけれど、認められなかった。なぜ認定されないんだろうと、すごく疑問に思いました。

 入管に収容されて亡くなったのは、ウィシュマさんが初めてではありません。数えられているだけで、2007年から17人は施設内で亡くなっているし、マイさんのようなケースもあります。実態はブラックボックス化していて闇が深い。見えているのは氷山の一角だと思いますね。

期限もない、家族にも会えない……もし私なら

 ――高校の卒論のテーマに入管問題をとりあげたということですが、どんな気づきがありましたか。

 知れば知るほど、ひどいなあと痛感しました。適切な医療を受けられないのもそうですが、子どもがいる人を収容して親子を引き離すのなんて、ほんとうにひどい。あとは長期収容の問題ですね。刑務所でも刑期が定められているのに、入管からはいつ出られるかもわからない。それでは希望を失ってしまう。実際、入管の中で自傷行為をする方も、自殺する方もいます。精神的に追い詰められるのがいちばんひどいと思います。

 ――いつまで収容が続くのかわからないのは、ほんとうにつらいでしょうね。

 想像できません。このあいだ初めて、面会のために入管にいったんですけど、刑務所のような建物でした。知らない人たちと一日中ずっと同じ部屋にいて、外の風景もみられないし、家族にもなかなかあえない。私だったら耐えられない。だれだって、そんな扱いはされるべきではありません。

人間にみえない「不法滞在者」のイラスト

 そもそも入管に収容されている人は、みんな悪いわけではありません。それなのに「不法滞在者」だと行政にレッテルを貼られ、犯罪者扱いされてしまう。そういう言葉を使っているから、差別や偏見が生まれるのではないでしょうか。せめて「非正規滞在者」のような言葉を使ったほうがいいと思います。

三重県警が作成し、三重県のホームページに掲載されていたイラスト。「差別的」との批判が相次ぎ、削除された=読者提供三重県警が作成し、三重県のホームページに掲載されていたイラスト。「差別的」との批判が相次ぎ、削除された=読者提供

 三重県がいったん公開し、取り下げた「不法滞在者」のイラストをみたのですが、ほんとにもうバイキンマンというか、悪者役のキャラクターになっていて。人間を人間としてみていないことがよくわかる感じがします。

 《注》 三重県警生活環境課が作成し、6月1日に三重県のホームページに掲載された「外国人の不法就労・不法滞在の防止について」のお知らせで使ったイラストに対し、「差別的」などの批判が相次ぎ、県がこのイラストを削除した。灰色の肌に黄色の目をした男女3人が笑いを浮かべながら、「在留資格 調理師」「在留資格 留学」「在留資格 無資格」と書かれた紙を持ち、資格外の仕事に就く様子が描かれていた。

 あと、今回気づかされたのが、アフリカや東南アジアの人たち、LGBTQの人たちをとくに差別しているなと。ウィシュマさんの妹さんが「スリランカ人だからこのような対応をするのではないか」といっていましたが、ほんとにそうだなと思って。日本は経済的に発展しているから、ほかの国を見下すというのもあるのかなと感じますね。

若者の姿がめだつのは、なぜか

 ――ウィシュマさんの問題や入管法改正案に対して、どんなふうに声を上げてきたのですか。

 恥ずかしながら、この問題にとりくんだのは今年からです。卒論のために弁護士や支援者にインタビューしたり、入管法改悪反対のシットインに参加したりしました。参加したシットインは昼だったので、それでは学生には参加しにくいと思い、夕方のアクションを企画しました。その後、入管法改正案に反対する記者会見に参加したり、入管に面会にいったり、ウィシュマさんの事件の真相究明と再発防止を求めるスタンディングを呼びかけたりするという流れですね。

スタンディングに参加した、ウィシュマ・サンダマリさんの2人の妹。ウィシュマさんの遺影と、#JusticeForWishmaというハッシュタグを掲げている=2021年7月30日、東京・霞が関の法務省前宮島ヨハナさんが呼びかけたスタンディングに参加した、ウィシュマ・サンダマリさんの2人の妹。ウィシュマさんの遺影と、#JusticeForWishmaというハッシュタグを掲げている=2021年7月30日、東京・霞が関の法務省前

 ――これまでは高齢の方が社会運動を担うことが多かったので、働く人や学生が参加しにくい時間帯に設定されていたのかもしれませんね。

 それでも、初めてシットインにいった時にも何人か大学生が参加していて。そういう学生を見ていい刺激を受け、モティベートされました。「あっ、若者でもアクションを起こせるんだ」って。

 ――入管関係の運動では、若い人たちの姿がめだちます。どうしてでしょう。若者のほうが、外国人を身近に感じているとか?

 うーん。いまの時代、コンビニとか工事現場で外国人が働いているし、私も母がインド出身なんですけど、ハーフの方もけっこういますね。それで身近に感じるのかな?

 ソーシャルメディアの力も大きいと思いますね。私もウィシュマさんのことをインスタグラムやツイッターでかなり投稿していたんですけど、#JusticeForWishmaのハッシュタグもけっこう広がったので。投稿をみた友達が「えっ! そんなこと知らなかった」と、アクションに参加してくれました。

ツイッターではヘイトコメントがあったけれど

 ――若者が声を上げると、風当たりが強くありませんか。日本では、若者が政治的なことにかかわるのを歓迎しない空気は根強くて、「よけいなことをする時間があったら勉強してろ」などといわれることもよくあるようです。

 ツイッターで発信した時にはヘイトコメントもありましたね。「ウィシュマさんは不法滞在だったからあたりまえだ」とか、「不法滞在が増えるのはいやだ」とか。それから、「反日ですか?」とか。問題を理解していないゼノフォビア、外国人嫌いの人が多いという印象です。

 でも、直接いわれたことはほんとにないですね。私の学校はインターナショナルスクールで、政治にもオープンな学校なので、シットインに参加するための早退も認め、応援してくれました。友達も「ひどい問題に気づかせてくれて、ありがとう」というような言葉をかけてくれたり、自分のインスタに再投稿してくれたりする人がすごく多かった。

 「ウィシュマさんは不法滞在者だからあたりまえ」という感じの子もひとりいたんですけど、その子と話して入管問題を説明したら、「そんなのまったく知らなかった。ありがとう、教えてくれて」と言っていました。入管法改正案が廃案になるというニュースを知った時は学校にいましたが、「あ、廃案になった」って、みんなすごく喜んでくれましたね。

外国人の人権を守らなければ、日本人の人権も守られない

ウィシュマさんの事件の真相究明と再発防止を求めるスタンディングを呼びかけた宮島ヨハナさん=2021年7月30日、東京・霞が関の法務省前ウィシュマさんの事件の真相究明と再発防止を求めるスタンディングを呼びかけた宮島ヨハナさん=2021年7月30日、東京・霞が関の法務省前

 ――運動に参加している若者は、どこかで外国人とか、多様なルーツをもつ人たちと接したことのある人が多いような気がします。

 そう思います。ハーフの方もいるし、国際的な環境で育ったから、異なる視点でこの問題をみられるのかなという気がしますね。参加している何人かに「どうしてこの問題に興味もったんですか?」と聞いたんですが、(ハーフではない)フル日本人の方からよく聞くのは、留学にいっていたという話です。上智大学に通っている子は「留学にいった時に難民の友達がいた」っていっていました。

 国際的な環境に育っていない方にとっては、ちょっと共感しづらいところがあるのかもしれません。行政からは「不法滞在者」というレッテルを貼られるし、「私は日本人だから、外国人のことはどうでもいい」と他人事のように思いやすいけど、共感できないわけではないと思います。

 私が好きなキング牧師の言葉があります。

 Injustice anywhere is

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