星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト
1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
行政機構に対する統治能力の欠如と国民の不安・疑問に応える発信力不足があらわに
新型コロナウイルスの感染拡大で中止論も出た東京五輪が8月8日に閉幕。日本の政治は今秋の衆院解散・総選挙に向けて動き始める。
この総選挙の最大の争点は、安倍晋三・菅義偉政権が進めてきたコロナ対策への評価である。感染確認から1年半余り。迷走し続けたコロナ対応は、日本の政治・行政の弱点をさらけ出した。総選挙では、一連のコロナ対応の検証とともに、医療態勢や経済支援のあり方についても具体的な論争が求められる。
菅首相は8月2日、コロナ感染者の入院について、重症者や重症化が想定される患者に限り、中等症・軽症の患者は原則、自宅療養とする方針を表明。中等症以上は入院としてきた従来の方針を転換した。医療現場からは「中等症でも急激に悪化する可能性があり、自宅療養は危険だ」という反発が続出。与野党からも突然の基準変更に批判が相次いだ。
今回の入院制限は、コロナ対応に揺れ続けてきた安倍・菅政権の本質的な欠陥を端的に示している。すなわち、コロナ感染という深刻な問題に対する
①医療をはじめ行政機構に対する統治能力の欠如、
②国民の不安や疑問に応える発信力の不足
である。
以下、安倍・菅政権のこれまでのコロナ対応を振り返りながら、問題点を解明してみよう。
2020年初からの感染拡大を受け、当時の安倍政権は動揺した。2月末、安倍首相は突然、「全国一斉休校」を打ち出して教育現場の混乱を招いた。4月には全国民に布製マスク2枚を配布することを決めたが、「アベノマスク」と呼ばれて不人気だった。
また、東京五輪について、安倍首相は3月に1年延期することを決断、IOC(国際オリンピック委員会)などと合意した。4月には東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を初めて発令、5月末まで続いた。感染がいったん収まると、安倍政権は「経済対策」のために「Go Toキャンペーン」を開始、感染は再拡大し、第2波となった。
感染対策の陣頭指揮をとってきた安倍首相は、疲労が重なり、持病も悪化して、8月に退陣を表明。9月、菅官房長官が自民党の後継総裁に選出され、菅政権が発足した。菅首相は官房長官に横滑りさせた加藤勝信厚生労働相の後任に田村憲久氏を起用。対策の取りまとめ役である西村康稔経済再生相を再任させるなど、安倍政権のコロナ対策の基本方針を引き継いだ。
感染は年明けから急拡大、第3波が押し寄せた。大阪など近畿圏では病床がひっ迫、感染して症状が悪化しても入院できないまま死亡するケースが続出した。一方で、菅首相は河野太郎規制改革担当相をワクチン接種の“司令塔”に指名。ワクチン接種を急いだ。
感染はいったん収まりかけたが、4月以降に再び拡大、第4波となった。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を繰り返したが、感染は収まらず、7月には第5波となった。東京五輪の開催が危ぶまれたが、菅首相は開催の方針を変えず、7月23日には無観客の五輪が始まった。
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