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地政学上の大転換を迫る中国でのミサイルサイロ発見

対中政策の見直しは必至

塩原俊彦 高知大学准教授

 アメリカ科学者連盟(FAS)は2021年7月26日、中国の新疆ウイグル自治区東部のハミ(クルム)市近くで建設中のミサイルサイロを発見し、最終的に約110基のサイロが設置される可能性があると発表した(マット・コルダとハンス・クリステンセンの共著資料を参照)。工事は2021年3月初旬にはじまり、すでにその概観を確認することができる(下の写真を参照)。

進む中国でのサイロ建設

拡大中国・新疆ウイグル地区のハミ市付近で発見されたミサイルサイロ場
(出所)https://fas.org/wp-content/uploads/2021/07/Hami_selection-ed1-scaled.jpg

 実は、6月30日には、カリフォルニア州にあるミドルベリー国際研究所のジェームズ・マーティン不拡散センターの専門家が甘粛省に119基の大陸間弾道ミサイル(ICBM)用サイロが新たに建設されていることを確認している(同日付のワシントン・ポスト電子版を参照)。その姿は商業衛星画像によって確認されている(下の写真を参照)。建設中のサイロは全部で約145基になる。

 地球上の覇権争奪をめぐる地政学研究にとって、核兵器を運搬・攻撃するための戦略ミサイルを配備するサイロが中国の2カ所において建設中であることがわかったことは重大な意義をもつ。中国の核兵器戦略の一端が垣間見えたことで、今後の世界の軍事戦略に大きな影響をおよぼす可能性があるからだ。

 おりしも、2021年7月28日、スイスのジュネーブで核兵器をめぐる戦略的安定性に関する米ロ協議が開始された。だが、もはや中国の新しい核戦略によって、米ロ2国間の核協議そのものが左右されかねない状況が生まれている。中国抜きに核兵器削減やその管理を話し合っても、意味がない時代になりつつあるのだ。

 2010年に『核なき世界論』を刊行し、核兵器による覇権問題を論じたことがある筆者としては、地政学上、もっとも重要な論点である核兵器をめぐる軍事問題についてここで解説してみたい。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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