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地政学からみた中央アジア5カ国

建国30周年を迎える各国の動向は

塩原俊彦 高知大学准教授

 中央アジア諸国(カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、キルギス)は2021年に建国30周年を迎える。いずれもソ連邦を構成する共和国から独立を果たした。5カ国は、ヨーロッパと中国とを結ぶ中間に位置することから、地政学上、世界の空間支配のうえで重要な意義をもっている。覇権争奪からみると、米国、中国、ロシア、トルコ、イランがこの地への影響力の維持・拡大をねらっており、今後の動向が注目される。

 最近では、米軍のアフガニスタンからの撤退や武装勢力「タリバン」による全土制圧が、この地域における各国の勢力関係に影響をおよぼしている(この問題については、別の機会に詳述したい)。7月16日には、ウズベキスタンのタシケントで、中央アジアと南アジアの協力の展望に関するハイレベル国際会議(「中央・南アジア:地域の相互接続性」)が開催された。シャフカト・ミルジヨエフ大統領のもと、アフガニスタン大統領、パキスタン首相、中央・南アジアの外務大臣のほか、44カ国と約30の国際機関からの代表団、有力なシンクタンクの責任者が参加した。とくに、貿易・経済、輸送・通信、文化・人道の各分野での協力関係を発展させるための議論が展開され、新しい息吹にあふれる場となったという(詳しくはエクスペルト参照)。

 ここでは、拙稿「米中ロの利害が交錯する中央アジア」を踏まえたうえで、中央アジア5カ国をめぐる覇権争奪状況について考えてみたい。

中央アジアの基礎知識

 まず、中央アジア地域に関して知っておいてほしい基礎知識を紹介しよう。「図 三つの『ハン国』」に示されたように、いまから100年以上前には、ティムール朝を滅ぼしたウイグル人によってヒバ・ハン国、ブハラ・ハン国、コーカンド・ハン国が建国された(図の括弧内にある各国の存立期間については異説もある)。カザフ人は、ウズベク人の南下で空白となった草原に進出した騎馬遊牧民がまとまったものだが、東のジュンガルによる圧迫を受けて、18世紀にロシアの保護下に入った。3ハン国についても、ロシア帝国やソ連邦の支配下に置かれるようになる。

 この図を使って、2019年12月23日付毎日新聞デジタルに紹介された記事「藻谷浩介の世界『来た・見た・考えた』」には、つぎのような記述がある。

 「そんな中で中央アジアのトルコ系諸民族も、アム川・シル川流域の定住農業民・ウズベク人、その北の草原で遊牧するカザフ人、南の砂漠で遊牧するトルクメン人、北東の天山山脈西麓(せいろく)にとどまったキルギス人などに分かれていった。20世紀になり、あまり明確ではなかったそれらの違いを際立たせ、分割統治に利用したのがスターリンである。」

 たとえば、カザフ人とウズベク人との名前に強い重複がみられ(最大70~80%)、親族関係が近いことが知られている。カザフ人には「ウズベクは私の兄弟」という古い格言が伝わってもいる。

 こうした過去の事情を知っていれば、現在の中央アジア5カ国が同じイスラーム教徒として協調し合える可能性があることがわかる(この問題は後述する)。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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