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[1] 冷戦下、断絶と疎外の社会に変革を告げた~「サウンド・オブ・サイレンス」

伊藤千尋 国際ジャーナリスト

難解で哲学的な詞「幻影は沈黙の音とともに」

 こうして完成したのは、使われた言葉は平易だが、言わんとすることは難解で哲学的な歌詞である。

拡大サイモン&ガーファンクル=「SIMON & GARFUNKEL」公式ウェブサイトから
 ともあれ訳してみよう。

やあ暗闇よ、昔ながらの友よ
僕は君と話そうと思って、またやってきたんだ
それは、ひそかに忍び寄ってきた幻影を見たから
僕が眠っている間に、その種がまかれたんだ
その幻影は、僕の脳にしっかりと根づいて、
今も頭に残っている
沈黙の音とともに

 続く歌詞には、人々は「話さずに語る」とか「聴かずに聞く」とか「歌われない歌を書く」などの言葉によって疎外感に満ちた社会が描かれる。話しても通じない、言葉のコミュニケーションがとれない、歌を作っても共有されないもどかしさを書き連ねたのだ。

 最後は「予言者の言葉は地下鉄の壁に、安アパートのホールに書かれており、沈黙の音の中でささやかれるのだ」で終わる。

 いったい何を言いたいのだろう。

暗殺・公民権運動―「断絶」と「疎外」の時代

 『サイモン&ガーファンクル全曲解説』(アルテスパブリッシング、2009年)で著者の佐藤実氏は「世界をゆるがしたあの事件(注・ケネディ暗殺)は、ポールにとってあらゆる意味での『断絶』と『疎外』の象徴と映り、そのことは<サウンド・オブ・サイレンス>の詞のなかに暗喩として埋めこまれているのではないか」と書く。

 そして「『沈黙の音』はまるで、ダラスの街の沿道を埋めた大観衆によってかき消された狙撃の“音なき音”のようだと私は連想したのである。とくに1番の歌詞などは『沈黙の音』と『かすかな銃声』がよく符合する」と分析した。

 背景にあるのはケネディ暗殺事件だけではない。当時、黒人の権利を求める公民権運動が高まり、その反動で白人の人種差別主義者が黒人や彼らに同調する白人を虐殺する事件が相次いだ。サイモン自身、その悲劇を「私の兄弟」という曲に描いている。

拡大暗殺前年、冷戦下でソ連がキューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚し、ミサイル撤去をソ連に迫るため、カリブ海でキューバの海上封鎖を実施することを全米に向けてテレビ演説するケネディ大統領。米ソが対決寸前まで至り、世界中を核戦争の瀬戸際の恐怖に陥れた=1962年10月22日

ビッグバン直前のエネルギーを秘めた沈黙

 さらにもう一つ。サイモンはこの歌を書きだす5か月前に一人でヨーロッパを貧乏旅行した。最終的に落ち着いたのはフランスのパリだ。地下鉄の車両の中でギターを弾いて歌い、セーヌ川に架かる橋ポンヌフの下、コンクリートの堤防で野宿した。

拡大来日したジャン・ポール・サルトル氏とシモーヌ・ド・ボーボアール氏。訪れた東京国立博物館で埴輪をみつめる様子=1966年9月21日
 つまり当時はやりのヒッピーだったのだ。そのころのパリから世界に広まったのが、サルトルらの実存主義だ。「沈黙の音」に実存主義の匂いを感じないだろうか。

 私がこの歌で連想するのは、ビッグバン直前の暗黒の宇宙だ。これからどうなるかわからないちっぽけな存在だが、契機を得て一挙に爆発し、無限大の空間に膨張する。そのような激しいエネルギーを秘めた不気味なほどの沈黙の世界。一見ネガティブだが、暗闇の向こうに開放を求める意思を感じる。

 歌が完成したのは1964年2月19日だ。取りかかってから3か月もかかっている。書いては消し、消しては書き…を繰り返したというから、相当悩んだあげくの作品だ。他の11曲とともに3月、レコーディングにこぎつけた。「水曜の朝、午前3時」というタイトルのデビュー・アルバムだ。ここから、サイモン&ガーファンクルの名によるデュオの活動をスタートさせた。

拡大「水曜の朝、午前3時」を発表したころのサイモン&ガーファンクル=「SIMON & GARFUNKEL」公式ウェブサイトから

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筆者

伊藤千尋

伊藤千尋(いとう・ちひろ) 国際ジャーナリスト

1949年、山口県生まれ、東大法学部卒。学生時代にキューバでサトウキビ刈り国際ボランティア、東大「ジプシー」調査探検隊長として東欧を現地調査。74年、朝日新聞に入社し長崎支局、東京本社外報部など経てサンパウロ支局長(中南米特派員)、バルセロナ1949年、山口県生まれ、東大法学部卒。学生時代にキューバでサトウキビ刈り国際ボランティア、東大「ジプシー」調査探検隊長として東欧を現地調査。74年、朝日新聞に入社し長崎支局、東京本社外報部など経てサンパウロ支局長(中南米特派員)、バルセロナ支局長(欧州特派員)、ロサンゼルス支局長(米州特派員)を歴任、be編集部を最後に2014年9月、退職しフリー・ジャーナリストに。NGO「コスタリカ平和の会」共同代表。「九条の会」世話人。主著に『心の歌よ!』(シリーズⅠ~Ⅲ)『連帯の時代-コロナ禍と格差社会からの再生』『凛凛チャップリン』『凛とした小国』(以上、新日本出版社)、『世界を変えた勇気―自由と抵抗51の物語』(あおぞら書房)、『13歳からのジャーナリスト』(かもがわ出版)、『反米大陸』(集英社新書)、『燃える中南米』(岩波新書)など。公式HPはhttps://www.itochihiro.com/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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