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アフガニスタン制圧 タリバンは変われるか?~日本は対応を中村哲医師に学べ

有害無益だったアフガン戦争。“タリバン復権”に国際社会・日本はどう向き合うか

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 8月15日、アフガニスタンの反政府勢力(旧支配勢力)タリバンはついに首都カブールを制圧。大統領府を占領して「勝利宣言」を発した。これに対してガニ大統領は同日、大金を持って国外に脱出し、タリバンの勝利と権力掌握を認める声明を発出した。

驚くべき速さで権力を奪還

 それにしても、タリバンでさえも想定しなかった驚くべき速さによる権力奪還であった。

 バイデン米大統領が今年4月、9月11日までに駐留米軍を完全撤退させると表明したのを受け、タリバンは一気に戦闘状態に入り、8月には州都への一斉侵攻を開始、わずか10日で全国34州都のうち、首都以外のほぼすべてを陥落させた。それも、単なる武力だけでなく、地方政府高官や軍閥に政治的解決を促して進められた全土制圧であった。

 周知のように、大統領が撤退期限にした今年9月11日は、米同時多発テロ(2001年)から20年目の節目にあたる。

 米国はテロの直後に首謀者をアルカイダのオサマ・ビンラディンと特定。アフガニスタンのタリバン政府がかくまっているとして、ビンラディンの引き渡しを要求。それを拒否したアフガニスタンに対して、米国を中心とする有志連合とともに10月から空爆を開始した。

 当時のブッシュ米大統領は、この戦争を「米国の自衛戦争」として“単独行動”を正当化。さらに、「この戦争は現代の十字軍」とまで言った。さすがに事の重大さに気づき、「十字軍」発言は撤回したものの、時すでに遅く、これで世界中のイスラム勢力から信頼を失うことになった。

拡大カブールのアフガニスタン大統領府を掌握したタリバーンの戦闘員=2021年8月15日、AP

私が対アフガニスタン戦争に反対した理由

 私は当時、この戦争はやるべきではないとメディアで強く訴えた。また、日本政府はこの戦争に加担するべきではないとも主張した。当時、アフガニスタンで活躍していた中村哲医師もまた、国会に参考人として出席した際、「自衛隊派遣は有害無益」と断言していた。

 ユダヤ、キリスト、イスラムの三つの宗教は、同根の「三大一神教」であり、人類史はそれらの抗争の歴史と言える面もある。私がこの戦争に反対した理由の一つは、ブッシュ大統領が言いかけた「十字軍戦争」に発展する可能性もあるからだった。日本は奇跡的にこの抗争の枠外にいた稀有の有力国だ。三大一神教の抗争がのっぴきならない事態に陥ったとき、その間に立てるのは三者から等距離の日本しかないという理由もあった。

 さらに、タリバン政権が倒れた後、米軍主導で「民主的政府」をつくるという構想にも、私は納得できなかった。メディアで私は「戦車で運んだ民主主義は実を結ばない」と強調した。それは今回、米軍の撤退が発表されただけで、その援護を受けてきた「民主的政府」が分解し、大統領が政府を捨てて国外に脱出したことからも明らかだ。

 武力で制圧して民主化を進めるという手法は、イラクに対してもとられた、米国の常套手段である。だが、その手法はその後、イラクを中心に「イスラム国」の出現を招くことになり、成功とはほど遠い様相を呈している。

 太平洋戦争で日本に勝利した後、日本を民主化したのと同じやり方だという見方もあったが、それは違う。日本には戦前から自由民権運動があったし、大正デモクラシーもあった。自らの力で民主化を進める素地はあったのである。

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筆者

田中秀征

田中秀征(たなか・しゅうせい) 元経企庁長官 福山大学客員教授

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から当選。93年6月、自民党を離党し新党さきがけを結成、代表代行に。細川護熙政権で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経企庁長官などを歴任。著書に『平成史への証言 政治はなぜ劣化したのか』(朝日選書)https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(講談社)、『保守再生の好機』(ロッキング・オン)ほか多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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