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タリバンの「勝利」がもたらすものは~米軍撤退に揺れるアフガニスタン②

国際社会が支援してきた民主政権が崩壊。アフガン国民や世界に深刻な影響が……

川端清隆 福岡女学院大学特命教授(元アフガン和平担当国連政務官)

戦意も統制もなかったアフガン国軍

 このため、アフガン国軍は軍としての統率を欠き、米軍への依存から脱却できなかった。航空支援、情報収集や補給など,

広範囲の米軍の支援なしに、アフガン国軍は主要な軍事作戦を遂行する能力を持てなかったのである。

 米軍の完全撤退が決定すると、独り立ちできない国軍はたちまち、トヨタ製の小型トラック、旧式のカラシュニコフ銃や携帯式ロケットランチャー(RPG)など、初歩的なゲリラ戦の装備しか持たない10万人足らずのタリバンに圧倒されるようになった。なかには迫りくるタリバン兵の姿を見ただけで敗走する部隊も現れ、新政府の国軍はほとんど戦火を交えないまま、次々と州都を失っていった。

 戦意も統制もない国軍が、戦意旺盛なタリバンに対抗できないのは自明の理であった。国際社会は最新の装備を持った兵力30万人の国軍という「器」をつくりこそすれ、民族や宗派を超えて新国家のために命を賭して戦う気概と覚悟という、国民軍としての「魂」を入れることに失敗したのである。

 アフガン国軍を育てた米国であったが、タリバンとの戦闘の最終段階では冷淡な姿勢に終始した。バイデン大統領はカブールの陥落が迫った8月14日に、「アフガン国軍が自国を守れない、もしくは守る意思がないのであれば、米軍が今後5~10年の間居続けても意味がない」と言い放ち、機能不全に陥った国軍を突き放した。

拡大アフガニスタンの首都カブールで8月14日、治安部隊の監視台などを視察したガニ大統領(左)とムハンマディ国防相代行=2021年8月14日、アフガン大統領府のツイッターから

ボン和平合意の理念と相いれないタリバンの教義

 タリバンの「勝利」は、ボン和平合意が目指した民主国家の終わりを意味するのだろうか? 極端なイスラム原理主義という本質が変わらない限り、タリバン政権下のアフガニスタンの未来は明るいとは言えない。

 国連が主導したボン和平合意は、9.11対米テロの3カ月後の2001年12月に調印された。和平合意の目的は、「アフガニスタンにおける悲劇的な紛争を終焉させ、同国における国民和解、平和の永続、安定および人権の尊重を促進する」ことである。

 このため和平合意は「イスラム、民主主義、多様性、社会正義の原則に基づく、国民自身の政治の将来を自由に決定する権利」を承認したうえで、「(アフガン国民の)広い合意に基づく、女性の代表問題に敏感で多民族的な、完全に国民を代表する政府の樹立」を宣言したのである。

 近代国民国家の樹立を目指すボン和平合意の理念は、預言者マホメットが生きた7世紀のイスラムへの目指す、タリバン運動の復古的な教義とは相いれない。

宗教が支配した中世に逆戻りか

 タリバンは1994年に、パキスタンのアフガン難民キャンプで結成された。1988年のソ連軍撤退後も骨肉の権力闘争を繰り広げるムジャヒディン(聖戦の戦士)に見切りをつけた青年たちが、「イスラム教神学生(タリバン)」と呼ばれる集団を結成して、祖国に「真のイスラム教徒による政府」を打ち立てるべく立ち上がったのである。

 タリバンは、敵対するムジャヒディン各派を「腐敗したイスラム教徒」と決め付ける一方で、自らを「真のイスラム教徒」と称して、支配地の住民の支持を得ていった。タリバンが自らの正統性を証明するため、コーランやハディースの極端な解釈に基づいたイスラム法シャリーアを厳格に施行したのはこのためである。

 そんなタリバン政権が復活すると、アフガン社会は宗教が支配した中世に引き戻され、20年余りにわたって積み上げられた人権擁護と民主化の土台は消え去ってしまうかもしれない。タリバンが樹立を目指す「イスラム首長国」では、宗教が唯一絶対の社会規範と見なされるので、多様性を重んじる社会に不可欠な、民主的な選挙や人権を容認する余地はほとんど残されていない。

 以下に、人権侵害、女性差別やアフガン発の国際テロなど、タリバン政権下で懸念される諸問題を個別に検証したい。

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筆者

川端清隆

川端清隆(かわばた・きよたか) 福岡女学院大学特命教授(元アフガン和平担当国連政務官)

大阪府出身。通信社を経て1988年より25年にわたり国連本部政治局で政務官として勤務。アフガン和平交渉やイラク戦争の戦後処理に関わった後、2004年以降は安保理担当として第二次核危機以降の北朝鮮の核ミサイル問題に関する審議に関わる。2013年より現職。著書に「アフガニスタン 国連和平活動と地域紛争」(みすず書房)や「イラク危機はなぜ防げなかったのか 国連外交の六百日」(岩波書店)。共著に「PKO新時代 安保理からの証言」(岩波書店)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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