根底から腐敗の広がる社会の現実
2021年08月20日
筆者がアフガニスタンに大使として着任したのは2011年初頭。9.11(世界同時多発テロ)の悲劇からちょうど10年目の節目の年だった。その年の半ば、米特殊部隊がオサマ・ビンラディンを殺害し、カブールの外交団はその話でもちきりになった。皆口に出す、出さないはあっても同じ一つの質問を心に抱えていた。「それで、これからどうするんだ」
この戦争は、米国が9.11の落とし前をつけるために始めた。誰もがそれを知っている。その目的を遂行する最もわかりやすいターゲットを消滅させた今、米国、及び共に戦っている同盟国の共通の政策目標はどうなるのか。
巨大な要塞のような米国大使館で、個人的な友人でもあった米大使の一人(当時の米大使館には担当別に複数の大使がいるのが当たり前だった)にこの質問をぶつけた。返ってきた答えを、今も鮮明に覚えている。「アフガニスタンをテロの温床に再びしない。そのためにはアフガン人が自ら自立した政府を作り上げることだ」
状況を考えれば、真っ当な答えだった。おそらく当時のカブールでは、国連関係者であれ、アフガニスタン人の有識者であれ、概ね同じように答えたと思う。当時の日本大使だった私も含めて。
だが、その後の10年を経て、国際社会はこの一見まともで現実的にも聞こえる政策目標が、いかに実現困難であるか思い知ることになった。アレクサンドロス大王の時代以来、数々の外国勢力の介入を許しながら、いかなる勝者も生まず、「帝国の墓場」と称されたこの国に、過去20年日本を含む国際社会が注ぎ込んできた支援のどこに問題があったのか。いくつかの考察を試みてみたい。
誤解を恐れず単純化して言えば、2001年末にイスラム主義勢力タリバンをカブールから駆逐した後、アフガニスタンの政治は常に「占領軍政治」だった。GHQである。2011年当時、アフガニスタンに駐留してタリバン掃討作戦の指揮をとるNATO(北大西洋条約機構)の同盟軍ISAF(国際治安支援部隊)司令官ペトレイアス将軍は、まさにマッカーサーに匹敵する権力と権威を保持していた。
当時のカルザイ大統領もカブールの政府要人も皆、権力の中心はISAF司令部にあることを知っていた。国連やNGOは民政の安定のためには長期的な人造り、制度作りが重要だということを、口を酸っぱくして説いていたが、アフガニスタンの指導者たちは権力のありかを素早く察知した。そして「占領軍政治」は、なかなか成果の見えない人造り、制度整備よりも、目の前の軍事作戦に役立つ人心収攬のためのプロジェクトを重視していた。アフガニスタンの人々はそのことも見抜いていた。
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