[2] 奪われた楽園 白人の帝国主義に踏みにじられたハワイ先住民~「アロハ・オエ」
伊藤千尋 国際ジャーナリスト
物憂げな甘いメロディーは別れを告げる歌
ハワイに行くとほぼ必ず見られるのが、夢かと思えるほど美しく雄大な虹だ。

カウアイ島の絶壁と海岸にかかった虹(Philip Jaeger / Shutterstock.com)
スコールが降ったあとカラッとした青空に、大きく華やかなアーチを描く。ハワイ州の車のナンバープレートにも虹のマークが入っている。
虹を見ていると、どこからか曲が流れてくる。「アロハ・オエ……」。その物憂げな甘いメロディーを聞くと、楽園に誘われているような気分に浸る。

フラのトップダンサー、アリアナ・セイユさん(C)KUNI NAKAI
日本で聞くのは「優しく奏ずるは ゆかしウクレレよ……」という歌詞だ。それは元のポリネシア語の歌詞とはまったく違い、イメージから連想する言葉をあてはめたものだ。それはそれでいいのだが、本来の原詩を訳すと、こうなる。
雨が誇らしげに断崖を横切り
森の中を静かに通り抜けていく
木の芽はふくらみ、
谷間にはレフアの花が咲き誇る
さようなら あなた さようなら あなた
可愛くて優しい人よ
去っていく前に
もう一度 抱きしめよう
また会える日まで
この場合、アロハは「さようなら」、オエは「あなたに」だ。アロハ・オエはつまり、愛する人に別れを告げる歌である。歌詞の冒頭で雨が断崖に降り注ぐが、別れを告げる恋人たちの目には雨のあとの虹が映っていただろう。

ハワイ島の虹(Galyna Andrushko / Shutterstock.com)
今のハワイはアメリカの一つの州だが、元はポリネシア民族の国だった。ハワイは、正しくはハワイイ(HAWAII)という。ポリネシアの言葉で「故国」を意味する。はるか4000キロも離れた南太平洋のポリネシアの海洋民が、2000年以上も前に小さなカヌーを漕いでやってきたと言われる。しかし、ここで生まれ育てば、ここが故国だ。
作者はハワイ王国女王
統一国家を築いたのはつい近年、1810年だ。君臨したのは「その名も偉大な」と歌われたカメハメハ大王だった。

ハワイ王国時代の国会議事堂だった建物アリイオラニ・ハレ(現在のハワイ州最高裁判所)の前に建つカメハメハ大王像(Malachi Jacobs / Shutterstock.com)
この歌の作者は、カメハメハ大王(カメハメハ1世)の血を引くリリウオカラニ女王だ。ハワイ王国の第8代国王であり唯一の女王である。
女王の地位に就く前、王位継承権を得た翌年の1878年、彼女は馬に乗ってホノルルの反対側の海岸の牧場に遊びに行った。断崖を越えて山を下ったマウナヴィリ村にある、彼女の侍従が経営する牧場だ。
やがて帰る時間となり、馬に乗ってふと振り向くと、村の美しい娘が侍従の首にレイをかけながら別れの口づけするのを目にした。二人ともいかにも名残惜しそうだった。感動した王女が帰途、馬上でハミングしながら作詞作曲したのがこの歌だと伝えられる。

リリウオカラニ女王
詩は彼女独自の作だが、曲とリフレインの部分はそれぞれ1850年代のアメリカの歌のメロディーによく似ている。女王がこの歌を耳にしていて、それが頭に残っていたのかもしれない。