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世界のCO₂回収・貯留(CCS)政策からみた日本政府の決定的遅れ

実現に向けた法制・税制の整備を進めよ

塩原俊彦 高知大学准教授

 温室効果ガスの代表格、二酸化炭素(CO₂)をめぐっては、それを回収・利用・貯留する(CCUS)ことでCO₂の排出量削減につなげようとする考え方がある。CO₂を分離回収して空中に放出しないようにしたり、回収したCO₂を地中に貯留したり、回収したCO₂を利用して石油代替燃料や化学原料などの有価物を生産したりすることが想定されている。ここでは、とくにCO₂を集めて地中などに封じ込める「CO₂の回収・貯留」(CCS)をめぐる世界の状況について論じてみたい。なお、CCSの具体的なイメージは下図に示した通りである。

CCSの歴史

 1970~1980年代に、米国では、枯渇した油田にCO₂を注入して残った石油を取り出すための採掘法としてCCS技術が発展した。1972年、テキサス州のガス処理工場で出たCO₂が同州の油田に供給されるようになり、1986年には、米ワイオミング州のガス処理プラントで、年間700万~800万トンのCO₂生産能力をもつCCSプロジェクトが稼働した。

 1996年になると、ノルウェー沖のスレイプナーCO₂貯留施設が誕生し、ガス開発で発生したCO₂回収後、海底の砂岩層に貯留されるようになった。年間約85万トンのCO₂が注入され、2017年1月現在、累計で1650万トン以上のCO₂が注入済みだ(CENTER FOR CLIMATE AND ENERGY SOLUTIONS)。2008年、ノルウェー沖のスノーヴィットCO₂貯蔵庫がつくられ、バレンツ海の島にある液化天然ガス(LNG)施設からCO₂を回収し、沖合の地下貯留層に貯蔵されようになった。

 このように、CO₂を石油増進回収(EOR)に利用するだけでなく、CO₂を回収して埋設するというアイデアが1990年代にすでに登場していたことになる。

 日本では、地球環境産業技術研究機構(RITE)が2003年から1年半をかけて新潟県長岡市で CO₂実証圧入試験を実施し、CO₂を1万トン圧入したのが初めてのCCS実験だった。2008年に日本におけるCCS技術の実用化をめざして、電力、石油精製、石油 開発、プラントエンジニアリングなど、CCS 各分野の専門技術を有する大手民間会社が出資して日本CCS調査(JCCS)が設立された。JCCSは、経済産業省からの委託事業として、2012年から北海道苫小牧市にCCSの実証プロジェクトを展開し、2016年からCO₂圧入試験を実施した。

 なお、CCS 実証試験にあたっては、CO₂の圧入後に、その近隣を震源とする大規模地震(新潟県中越地震[2004年10月]と新潟県中越沖地震[2007年7月]、および北海道胆振東部地震[2018年9月])が発生したという事実がある。CO₂注入との因果関係については、「専門家による客観的な科学検証はなされておらず、実証地付近で立て続けに大規模地震が発生していることから、安全性に関しては住民や市民の不安は小さくない」との声(「CO₂回収・利用・貯留(CCUS)への期待は危うい」気候ネットワーク)もある。

世界のいま

 国際エネルギー機関(IEA)が国際通貨基金(IMF)と共同で作成したWorld Energy Outlook Special ReportであるSustainable ReCOvery(June 2020)によると、「現在、大量のCO₂を回収する施設は21カ所あり(1カ所あたり年間60〜800万トンCO₂)、これらの施設では、CO₂を専用の地層に貯蔵するか、CO₂を石油増進回収(EOR)に利用している」とのべている。ほかにも、「大規模な設備としては、石炭火力発電からCO₂を回収する施設が二つ、鉄鋼生産にCO₂の回収・利用・貯留(CCUS)を適用する施設が一つある」という。

 さらに、近年、CCUSへの関心は欧米に集中しており、約25のプロジェクトがさまざまな開発段階にある。中東やオーストラリアでも、新たな施設の計画が発表されている。2021年6月には、三菱重工業は世界最大のバイオマス発電所をもつ英電力会社のドラックス・グループにCO₂回収設備の技術を

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