首相の支援する候補が大敗。“大政局”が始まるか
2021年08月25日
横浜市長選挙が8月22日に投開票され、立憲民主党が推薦した山中竹春氏(元横浜市立大学医学部教授)が、菅義偉首相が強力に支援した小此木八郎氏(元国家公安委員長)、や現職の林文子氏らを大差で退けて圧勝した。
菅政権の支持率が内閣存続の“危険水位”とされる20%台に入りつつあること、自民党をまとめきれず分裂選挙にもなったことに加え、選挙直前に起きた具体的な出来事が、小此木氏落選の流れにダメを押したのは明らかだろう。
ひとつは8月17日にあった自民・公明の与党幹部5人による会食だ。さしたることではないようにも見えるが、コロナ禍で長い間我慢を強いられてきた国民の感情を逆撫でした。こうしたちょっとした怒りでも、直後の投票行動を左右するものだ。
もうひとつは。同じ日に起きた悲痛な出来事である。新型コロナに感染した妊婦が、自宅療養を余儀なくされたうえ、生まれた男児が死に至ったという痛ましい事件で、政府のコロナ対策に対してくすぶっていた国民の怒りに火を付けた。コロナ禍発生当初から、病床不足に陥る危険は指摘されていた。なぜそれに対応しなかったのかと。
この二つの出来事が報道されると、国民の怒りが増幅され、政権への不満が一気に高まったことを感じた。
相次ぐ緊急事態宣言も、既に“オオカミ少年”のようになっていないだろうか。東京都の1日当たりの感染者が5千人を越えるようになると、さすがに身が引き締まったが、昨年100人を越えた時には、もっと恐怖を感じたように思う。
緊急事態宣言の効果が薄れているので、さらに厳格な対応をするべきだという人は増えているのだが、コロナをめぐる状況や傾向を確認して対応について議論をすべきだと言っても、肝心の国会は閉じたまま。閉会中審査は「やっているふり」をするだけに終わっているのが実情だ。法改正をするべきだという声が高まっても、かたくなに国会を開こうとしない政府の姿勢に、国民は怒り心頭だ。
必要な時に開かれないような国会では、その本分を尽くせない。そして世論は、政権が政策の失態や不祥事を蒸し返されるのが嫌だから、国会を開かないのではないかと推定する。これもまた、菅政権の支持率を下げる一因になっている。
今回、延長された緊急事態宣言は9月12日に解除される。中途半端に見えなくもないこの延長幅も、コロナの感染状況を考慮したというよりは、政治日程を考えてのことらしい。メディアの報道によると、9月30日に自民党総裁の任期が満了する前に、菅首相が衆議院を解散し総選挙を実施する可能性を残すためだと言う。
コロナという人の命にかかわる問題をめぐっても、そうした政治的な計算が背後に働いていたということを知れば、世論がさらに硬化して、菅政権への不支持を強めるのは、自然の流れと言っていい。
このように、菅政権の現在の支持率の低下、不支持率の上昇は、自ら招いた感が強いが、ここで忘れてはいけないのは、安倍晋三・前政権のことである。実は、菅政権が前政権から引き継いだ「負の遺産」も、かつてないほど大きいのではないか。現政権が逆境に立つようになると、前政権のマイナス面がそこに加算されて不支持率を高めてしまう。
菅政権はこの春、国政の補欠選挙で敗北を重ねた。7月の東京都議選でも予想外の負けを喫した。しかし、今回の横浜市長選での敗北は、首相にとって、個人的に深く関与したがゆえに、これまでになく致命的だろう。さすがに街頭で演説はしなかったものの、自分の名前で文書を送ったり、支援を訴える電話をかけたり、全面的に支援したという。にもかかわらず、大差で敗れた結果が与える打撃は大きい。
菅首相にすれば、リスクをとって臨んだこの選挙で勝利を収めることにより、自民党内での求心力を取り戻し、来月に予定される自民党総裁選、さらに衆院選を有利に進めるもくろみだったであろう。だが、想定を超えた敗北は、求心力を取り戻すどころか、政権や与党の見通しを大きく狂わせるものになったようである。
横浜市長選での敗北は、文字どおり“大政局”がはじまる号砲になったといえる。
それにしても、今回の選挙について、菅首相にはどんな誤算があったのだろうか。
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