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コロナ禍と表現~人間らしく生きることは不要不急か/指揮者・大野和士との対話(前編) 

コロナ禍で市民社会は権力によってだけでなく自ら進んで萎縮的になっていないか

倉持麟太郎 弁護士(弁護士法人Next代表)

民主主義社会が失おうとしているもの

 大野氏が「生じゃないとダメ」というそのロジックは、我々の民主主義社会が失おうとしているものへの視座を提供する。

 「ただ、その後、緊急事態宣言が明けて、普段の10分の1程度である200人くらいのお客さんを入れて、12本のヴァイオリン等、小規模な編成でベートーベンの1番の交響曲を中心としたプログラムを演奏しました。入ってくるだけでものすごい拍手、思わず楽団員も立ったままお辞儀をしました。2000人の拍手をもってしても越えられない熱さを持った拍手でした。彼らはこの演奏会での“体験”で、音楽家としての使命をより感じてしまった。これを伝えるために、より自分を律しなければならないと生まれ変わったんです」

 「演奏家は、それにふさわしい“息”をし、呼吸をして音を出す。楽器によっても息遣いが違うし、出そうとする音色によっても息遣いは違うわけです。つまり、鍛錬した肉体性というものをそこに持ち込まないと、音楽にならない。その総体としてのオーケストラなのであって、これはリモートでは伝わるべくもないことです。このことは、受け手であるその場にいたお客さんにも、身体性、肉体性を伴って伝わっていくわけです」

 「再開したときの演奏会では、一人一人が、一音一音、どのように自分の楽器を鳴らすのか、いかなる音色を出すのかを今まで以上に大切に考えて演奏していたのです。流れ作業ではなく、一人一人が一つ一つの音に命与えていく過程・作業があったからこそ、返ってきた拍手が、胸にいたく刺さったのでしょう」

 「この経験をした演奏家としない演奏家では、このあとの音楽家としての人生がまったく違ったものになるのだろうと思わせるには十分な経験だったのです」

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筆者

倉持麟太郎

倉持麟太郎(くらもち・りんたろう) 弁護士(弁護士法人Next代表)

1983年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱う一方で、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考人として意見陳述、World Forum for Democracyにスピーカー参加、米国務省International Visitor Leadership Programに招聘、朝日新聞『論座』レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。共著に『2015年安保 国会の内と外で』(岩波書店)、『時代の正体 Vol.2』(現代思潮新社)、『ゴー宣〈憲法〉道場』(毎日新聞出版)、著書に『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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