メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

菅総理の断末魔のあがき、メルケル後継候補に急変~日独政治は不透明に

米国のアフガン撤兵で揺らぐ同盟諸国――国際秩序の運営に緊張感を

花田吉隆 元防衛大学校教授

アフガニスタン政権崩壊と米軍撤退について演説するバイデン米大統領=2021年8月16日( john smith 2021 / Shutterstock.com)
 アフガニスタンからの撤兵で、米国のバイデン政権は甚大なダメージを受け、なお混乱が収まる気配がない。同盟重視の米国は、各国動向に関心を寄せるが、就中、総選挙を間近に控えるドイツと日本が重要だ。ところがこの両国、どうも雲行きが怪しい。日本では菅政権が突如、終焉を迎えた。

菅義偉首相の退任表明を伝えるニュースが全国各地で流れた=2021年9月3日、札幌市中央区
菅首相の退任表明を伝える号外を受け取り紙面をスマートフォンで撮影する人の姿があった=2021年9月3日、東京都港区

好調のバイデン政権にアフガニスタンの落とし穴

 バイデン政権は、就任後短期間で目覚ましい成果を挙げた。目玉政策である1兆ドル規模のインフラ投資法案も8月10日に上院を通過し、もう一つの3.5兆ドルの環境や福祉分野の対策は、24日、下院で予算決議が可決、近く関連法案の審議に入る予定だ。この2つは政策の中核であり、それが成立に向け着々と進捗しているのは政権として心強い。

 ところが、好調な時こそ思わぬ落とし穴が待っている。

陥落したカブール=2021年8月(john smith 2021 / Shutterstock.com)
 アフガニスタンがこういう展開を辿ろうとは、バイデン政権の誰もが考えていなかった。あっという間に首都カブールまで占拠されては、20年にわたる人命の犠牲と資金の投入は何だったのかとの批判は当然だし、何より、8月26日、空港周辺の自爆テロで米兵13名を含む180名以上の死者を出したのは致命的だった。過去の例を引くまでもなく、米国民は米兵の死亡に敏感だ。13名もの命が失われたことは、今後必ずや尾を引いていくに違いない。

アフガニスタンの爆破テロ事件で亡くなった米軍のライリー・マクコラムさん(20)=姉のフェイスブックから。姉の投稿によると、マクコラムさんは兵役後、歴史の教師とレスリングのコーチになることを夢見ていた。3週間後には父親になるはずだった

アフガン撤兵――同盟国巻き込み対中政策強化の思惑

 ところで米国がアフガニスタンからの撤兵に踏み切ったのは、既に20年も経ち、もうそろそろ終わりにすべきだという米国民の強い厭戦気分があったためだが、もう一つ、対中政策に集中したいとの思惑もあった。バイデン外交の基本は、同盟国を巻き込み対中政策を強化することだ。アフガニスタンから撤兵すれば、その兵力をアジアにシフトさせることができる。

今年のG7サミットのセッションに臨む各国首脳。菅首相、メルケル独首相、バイデン米大統領らが参加している=2021年6月11日、英国・コーンウォール
 そういうバイデン政権にとり、同盟国の行方は大きな関心事だ。安定した政権か、基本政策に変更はあるか、どの程度積極的な協力が期待できるか等、常に注意深く見守っている。特に総選挙を間近に控えたドイツと日本は、米国にとり目下のところ最大の関心事といっていい。ところがこの両国、ここに来て俄然先行き不透明になってきた。

独で「忘れられた政党」が突如復活、メルケル与党抜く支持率

与党キリスト教民主同盟の党大会で演説するドイツのメルケル首相=2019年11月22日、ドイツ東部ライプチヒ
 ドイツでは、一昨年夏、緑の党の躍進が伝えられた後、メルケル首相の与党キリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)が盛り返し、長く支持率首位を独走する日が続いていた。もう一つの連立与党のジュニアパートナー、社会民主党(SPD)に関心を向ける者は誰もいなかった。

 SPDといえば、衰退過程に入って長く、抜けようともがけばもがくほど深みにはまっていくとの印象しかない。ところが、この半ば忘れられた政党が、過去2か月の間に突如復活、ついに一部世論調査でCDU/CSUを抜くまでになった(8月24日付の世論調査会社Forsa。23%対22%で首位)。

 これには、SPD内ですら「信じられない」との声が相次ぐ。場合によっては、同党の党首代行で首相候補のオラフ・ショルツ財務相がメルケル首相の後任になるかもしれないのだ。SPDが突然変貌したのは何が原因か。

ドイツ社会民主党 (SPD)の本部前には、党の首相候補オラフ・ショルツ氏の巨大広報看板が立つ=2021年8月24日、ベルリン(mm7 / Shutterstock.com)

「何もしていない」だけで復活したSPD 相次ぐ敵失

 SPDの復活はショルツ氏に原因があり、同氏がこの2か月、突如脚光を浴びることとなった結果SPDの支持率も上がった、というのが事の真相だが、では、同氏が何か特別のことでもしたのかというとそうでもない。

 それどころか「ショルツは何もしていない」。しかし「何もしてないからいいのだ」と一部のうがった見方は言う。つまり、同氏は、財務相として日々業務を淡々とこなしていただけだが、気が付けば有力なライバル二人が落伍していたというわけだ。そういう大きな敵失をライバルが犯した。

演説するドイツ社会民主党 (SPD)の首相候補ショルツ氏=2021年8月27日、ベルリン(photocosmos1 / Shutterstock.com)

最有力だったCDU党首は痛恨の過ち 災害視察で笑い顔

 そのうちの一人。メルケル後継の最有力候補とされていたのは1月にCDU党首に選出されたばかりのアルミン・ラシェット氏だ。ところがこのラシェット氏、7月にドイツを襲った洪水の現地視察でミソをつけてしまった。視察の合間に取り巻きと笑いながら話すさまを写真に取られてしまったのだ。これは痛恨の過ちといっていい。

独与党CDUのアルミン・ラシェット党首=2020年2月14日(photocosmos1 / Shutterstock.com)
 危機に見舞われた時、指導者がどう行動するか、有権者にとり、指導者の資質を見極めるにこれほどいいチャンスはない。果敢に危機に立ち向かい、臆することなく迅速に対応すれば指導者としての評価は上がるが、逆に、対応に逡巡し、打つ手打つ手が後手に回るようだと評価は一気に下がる。

稚拙な危機対応は日本でも。森喜朗首相と菅直人首相の教訓

 かつて日本でも、当時の森喜朗首相が、日本の海洋実習船と米海軍原子力潜水艦が衝突した「えひめ丸事故」の際、事故の一報を耳にしたにも拘わらずゴルフ場から離れなかったとして世論の批判を浴び、その後退陣につながっていった例があるし、民主党の菅直人首相も東日本大震災の対応でもたついたことで、その後の民主党の凋落を招いてしまった。

 政治家は、危機の時こそ日頃の研鑽の成果を発揮すべきであり、それこそを有権者が目を光らせて見守っているのだということを、政治家はゆめゆめ忘れてはならないのだ。

えひめ丸事故の行方不明者の家族らと面会する森喜朗首相=2001年2月22日、首相官邸
福島県双葉町民の避難所となっている体育館を訪問し、被災者の「いつになったら帰れるの」という言葉を聴く菅直人首相(中央左から2人目)=2011年5月4日、埼玉県加須市

ただの「陽気なおじさん」に堕し、支持率急落

 ラシェット氏は、元来、気さくで陽気なラインラント地方出身の人物だ。平時には、こんな付き合いやすい人はいない。しかし危機の時、この資質が逆にアダとなる。犠牲者が200人を超す洪水被害が出る中、どういう状況であったにせよ、取り巻きと笑い合うようでは危機の指導者として失格だ。

 単なる「陽気なおじさん」でしかなかった、と見られたラシェット氏は支持率をじりじりと落とし、直近ではついに14%(週刊誌Spiegel、8月18日~25日調査「首相として最もふさわしいのは誰か」)と緑の党の候補(17%)にも及ばないまでになった。実に危機対応の巧拙こそが政治家の運命を左右する。

 CDU内には、ラシェット氏と争ったもう一人の候補、マルクス・ゼーダー氏に首相候補を差し替えられないか、といった声も聞かれるが、選挙まで1か月を切った今となってはとてもできる話でない。

独与党CDUのアルミン・ラシェット党首=2021年8月16日(photocosmos1 / Shutterstock.com)

40歳党首で躍進目指した緑の党、経歴や盗作疑惑で下降

 さて、敵失を犯したのは二人だ。もう一人の緑の党、アンナレーナ・ベーアボック氏も評価を落とした。こちらは、経歴詐称や著書の盗作疑惑が影響した。

ドイツ・緑の党のベーアボック共同党首=2021年8月25日、ベルリン(photocosmos1 / Shutterstock.com)
 緑の党は共同代表として二人の党首を戴く。そのうちどちらを首相候補に立てるか、党内で慎重に議論した結果、ベーアボック氏に白羽の矢が立った。40歳の女性候補は、緑の党のイメージにぴったりであり、これで、同党はさらに飛躍していくに違いないと誰もが思った。ところが皮肉にも、ベーアボック氏を選んでから党勢がじりじりと下降していく。

 国民は政治家に大きな権限を委任する。首相にでもなれば一国の浮沈さえをも左右する。そういう政治家が信頼に足るか否か、国民にとりないがしろにできることではない。

 ベーアボック氏はこの信頼を傷つけた。メルケル後という重要な局面でこういう人物に国のかじ取りを任せていいのか、ということだ。結局、「不信感を拭えない人物」と見られた同氏の支持率もまた下降線を辿るしかなかった。今となってはこちらも、もう一人の共同代表ロベルト・ハーベック氏を選んでおけばよかったとの声が聞かれる。

緑の党の総選挙に向けた巨大ポスター。共同代表のベーアボック氏(右)とハーベック氏が並んで写る=2021年8月24日、ドレスデン(1take1shot / Shutterstock.c0m)

消去法で支持広げたSPDショルツ氏に実務家の安定感

 つまりショルツ氏は積極的に評価されたというより、消去法で支持を広げた(Spiegelの調査「首相として最もふさわしいのは誰か」で29%)。ショルツ氏が急速に伸びていったのは7月からだから(7月初めの支持率、18%前後)、この2か月弱で世論が大きく動いたことになる。

 ショルツ氏は、堅実な実務家だ。既に財務相として十分な実績がある。これまた堅実なメルケル氏の後任として抜群の安定感だ。「他の二人ではどうも頼りない。やはりメルケル後は安定感ある政治家がいい」との声が高まるにつれショルツ株が上昇していった。選挙が一か月後に迫る中、「陽気」「不信」対「実績」となれば、「実績」が選ばれるのは当然だ。

G20会合の合間に報道陣の取材に応じるドイツのショルツ財務相=2021年7月10日、イタリア・ベネチア

連立の行方は見通せず。アフガン情勢も火種に

 尤も、ドイツの場合、いずれにせよ2乃至3党の連立政権にならざるを得ず、組み合わせによっては、得票が最も多かった政党でも首相を出せないということが起こり得る。今のような三つ巴の情勢では、少数派の自民党、左派党を含め、あらゆる組み合わせが可能だ。数か月はかかると見られる連立交渉の結果いずれの政党が首相を出すことになるか、現段階では見通せなくなってきた。

 更に、総選挙の9月26日までまだ1か月弱ある。その間、政治の世界に何が起きるかわからない。

カブールのアフガニスタン大統領府を掌握したタリバンの戦闘員=2021年8月15日
治安維持の名目で、カブール市内に展開するイスラム主義勢力タリバンの特殊部隊とされる画像。8月23日、タリバン構成員が朝日新聞に提供した

 とりわけ不気味なのがアフガニスタン情勢だ。自国民や協力者の退避作戦に少しでも混乱が生じれば、即、政権批判につながると見られていたが、これは、26日の爆破事件を受けドイツ政府が早々と作戦終了を宣言することで回避した。

 残るは、今年中に最大50万人に達するとも見込まれるアフガニスタン難民だ。今のところ、この一か月で大量難民が発生する恐れは低いと見られているが、2015年の難民危機の例もある。何か起きれば、選挙の行方が左右されるのは必至だ。

密航業者から連絡を受け、雑木林へと駆け出すアフガニスタンからの密入国者たち=2021年8月19日、トルコ東部タトワン
地元警察の捜索で見つかり、拘束されたアフガニスタン人の密入国者たち=2021年8月21日、トルコ東部ワン郊外

菅総理の地元・横浜市長選で大敗 コロナ対応への国民の不満

 もう一方の日本。こちらは、先の横浜市長選挙で、菅内閣の閣僚を辞して立候補した自民党の小此木八郎候補が18万票もの大差で敗退したことにより、先行きが一気に不透明になった。総理のおひざ元でこれだけの大敗なら、不満は全国に広がっているに違いない。総選挙を前に永田町に激震が走った。

 不満のもとは何といっても新型コロナ対応だ。

 ついに恐れていたことが現実になった、というのが偽らざるところだ。新規感染者が爆発的に増加し「制御不能」となったことも去ることながら、医療体制が全国各地で崩壊、感染しても十分な医療を受けられないかもしれないという事態は、国民として到底受け入れられることでない。

小此木八郎氏(右)は菅内閣の防災担当相を辞して挑んだ8月の横浜市長選で大敗した。菅首相と小此木氏はともに横浜市が地元の自民党衆院議員を長く務め、首相は小此木氏の父の故小此木彦三郎元通産相の秘書を務めた仲でもあった。写真は閣議に臨む両氏=2021年2月26日、首相官邸

「自宅で自力で戦え」の酷さ。総理への忌避と怨嗟が全国に

 いつ急変するかわからない病状を抱え、まずは自宅に止まり自力で戦え、よほど悪くなれば入院先を探さないでもないが、見つかる保証があるわけではない、では、国民は怖くて仕方がない。ここに至り、新型コロナとの戦いはこれまでとは様相を一変、我々は新たな局面に入ったといわざるを得ない。これまでの新規感染者数に一喜一憂していた時とはわけが違う。

 そういう状況を招いてしまった政権に国民の不満が爆発するのは当然だ。全国には、菅総理に対する忌避と怨嗟の声が渦巻いている。

問題は菅総理の対話力不足。国民に向き合わぬまま

 しかし、総理に対する不満は感染状況が悪化したことだけにあるのではない。「総理は国民にしっかり向き合っていない」「総理は我々の声を聞こうとしない、我々に訴えかけようとの気がない」との声も重要だ。つまり総理の「対話力」不足だ。

 番頭がいきなり店主になったような菅総理にとり、「国民と向き合い、その声に耳を傾け、これに訴えかける」ことなど、これまで考えなかったに違いない。

緊急事態宣言の範囲拡大を決めた後の取材で、報道陣からの質問が続くなか、対応を切り上げて首相官邸をあとにする菅義偉首相=2021年7月29日
 官房長官記者会見は記者に上げ足を取られないよう、努めてぶっきらぼうにやり過ごすのがコツだ。相手に語り掛け、共感を得るなど、安倍政権の7年余りの間、考える必要もなかった。裏方として、権力のありかを察知し、自らも権力を行使することこそが重要だった。

危機にあって国民に語りかけられぬ指導者に価値はない

 しかし実は、その権力を支える最も根底の部分に国民の支持があり、その支持が揺らげば権力もぐらつかざるを得ず、従って、国の最高指導者の最大の仕事はこの支持を取り付けることなのだ、ということに思いを致すべきだった。番頭は仕事で実績を挙げればいい、そうすれば国民はついてくる、というのは、店主になればもう通用することではない。

 それでも平時ならそれですんだかもしれない。しかし危機にあって、国民に語り掛けられない指導者など、どれほどの価値があろう。チャーチルもルーズベルトも、国民に語りかけ、これを鼓舞しえてこそ参戦に進むことができた。それができない指導者では、国民は一丸となって危機克服に立ち上がろうという気にどうしてもならない。

岸田氏会見からの急展開――菅総理は断末魔のあがき

自民党総裁選への出馬会見に臨む岸田文雄・前政調会長。10年以上前から国民の声を聴いて書き続けてきたというノートを掲げてみせた=2021年8月26日、東京・永田町
 自民党総裁選に対抗馬として立った岸田文雄前政調会長は、8月26日の立候補表明の記者会見でこの点を意識的に強調した。自分は国民の声をしっかり聴くとし、崩れかけている国民の信頼を得るよう努力するとした。その発言は、菅氏の原稿棒読みに慣れた耳には、妙に新鮮で力強くさえ感じられた。

 ところがその後、事態が急展開していく。岸田氏の記者会見は思わぬ反響を呼び、岸田氏を評価する声が一気に高まっていく。何より、そこで岸田氏が強調した「党役員人事を、一期一年で三期まで」とする提案に、菅総理が敏感に反応した。

総理の求心力が急低下。「不出馬」表明で退陣決定

菅義偉首相は退任を表明する前日の9月2日夕刻、自民党本部を訪れ二階俊博幹事長と会談し、総裁選への立候補の意向を伝えていた。翌朝に事態が急変した。写真は会談後に党本部を出る二階氏=2021年9月2日午後5時40分、東京・永田町
 菅総理は、これに対抗して党役員人事を刷新するとしたが、8月31日、自民党総裁選を先送りして解散総選挙が行われるとのうわさが流れるやいなや、側近や、自民党有力者が相次いでこれに反対、総理の求心力が急速に低下していく。ついに9月3日、総理は、「自らは総裁選に出馬しない」と明らかにした。

 この2、3日、菅総理は、外堀が徐々に埋められていき、断末魔のあがきを見せるかのようだった。結局、最後は、総理自ら求心力喪失を認めざるを得なくなった。

自民党総裁選への立候補断念を決めたことを記者団に語り、最後に一礼する菅義偉首相=2021年9月3日午後1時8分、首相官邸

総裁選では真剣な議論で国民に希望を見せてほしい

 今後の展開は予断を許さないが、総裁選にはさらに何人かの者が名乗り出るものと思われる。重要なのは、総裁選でどれだけ真剣な議論が戦わされ、従って、新たに選出された総裁に国民がどれだけ希望を託せると思うかだ。但し、これは自民党総裁選の話でしかない。

 日本の政治の最大の問題は国民に選択肢がないことだ。選択肢は、政党を選ぶことでなく、自民党の中の誰を選ぶかでしかない。自民党総裁を選ぶのは自民党員だけだ。日本国民はどんなに頑張っても、ドイツ国民が「CDU/CSUに代えてSPDを選ぶ」というような政党選択ができない。これこそが日本が抱える最大の問題だ。

米国の同盟各国は政権移行期。日独では国民のしっぺ返しに

日本とドイツはともに総選挙が迫る中で、急速に政治の不透明感が増している。独与党CDUのラシェット党首(左)と菅義偉首相
 ドイツ(ラシェット氏)であれ日本(菅氏)であれ、結局、国民の存在を忘れた指導者は手痛いしっぺ返しを受ける。それが選挙という装置を備えた民主主義の重要なところだ。

 指導者は危機の時ほどこのことを忘れてはならない。無論、それは、有権者が選挙で責任ある行動をとってのことだ。有権者の厳しい一票があってこそ、指導者は国民の存在を忘れられなくなる。

 同盟網強化を期するバイデン政権にとり、同盟各国の政権基盤は盤石であってほしい。しかし、期せずして同時に、16年間のメルケル政権は終わりを告げることとなり、7年余りの安倍政権を継いだ菅政権も短命の内に終わりを迎えた。22年4月のフランス大統領選挙も加えれば同盟網の核となる3か国が、今、政権の移行期にある。

日米首脳会談後、共同会見をするバイデン大統領(右)と菅義偉首相=2021年4月16日、ワシントンのホワイトハウス

米の限界露呈で中ロには好機――ひび割れる国際秩序

 そういう米国自身、

・・・ログインして読む
(残り:約307文字/本文:約6920文字)