花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
米国のアフガン撤兵で揺らぐ同盟諸国――国際秩序の運営に緊張感を
アフガニスタンからの撤兵で、米国のバイデン政権は甚大なダメージを受け、なお混乱が収まる気配がない。同盟重視の米国は、各国動向に関心を寄せるが、就中、総選挙を間近に控えるドイツと日本が重要だ。ところがこの両国、どうも雲行きが怪しい。日本では菅政権が突如、終焉を迎えた。
バイデン政権は、就任後短期間で目覚ましい成果を挙げた。目玉政策である1兆ドル規模のインフラ投資法案も8月10日に上院を通過し、もう一つの3.5兆ドルの環境や福祉分野の対策は、24日、下院で予算決議が可決、近く関連法案の審議に入る予定だ。この2つは政策の中核であり、それが成立に向け着々と進捗しているのは政権として心強い。
ところが、好調な時こそ思わぬ落とし穴が待っている。
アフガニスタンがこういう展開を辿ろうとは、バイデン政権の誰もが考えていなかった。あっという間に首都カブールまで占拠されては、20年にわたる人命の犠牲と資金の投入は何だったのかとの批判は当然だし、何より、8月26日、空港周辺の自爆テロで米兵13名を含む180名以上の死者を出したのは致命的だった。過去の例を引くまでもなく、米国民は米兵の死亡に敏感だ。13名もの命が失われたことは、今後必ずや尾を引いていくに違いない。
ところで米国がアフガニスタンからの撤兵に踏み切ったのは、既に20年も経ち、もうそろそろ終わりにすべきだという米国民の強い厭戦気分があったためだが、もう一つ、対中政策に集中したいとの思惑もあった。バイデン外交の基本は、同盟国を巻き込み対中政策を強化することだ。アフガニスタンから撤兵すれば、その兵力をアジアにシフトさせることができる。
そういうバイデン政権にとり、同盟国の行方は大きな関心事だ。安定した政権か、基本政策に変更はあるか、どの程度積極的な協力が期待できるか等、常に注意深く見守っている。特に総選挙を間近に控えたドイツと日本は、米国にとり目下のところ最大の関心事といっていい。ところがこの両国、ここに来て俄然先行き不透明になってきた。
ドイツでは、一昨年夏、緑の党の躍進が伝えられた後、メルケル首相の与党キリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)が盛り返し、長く支持率首位を独走する日が続いていた。もう一つの連立与党のジュニアパートナー、社会民主党(SPD)に関心を向ける者は誰もいなかった。
SPDといえば、衰退過程に入って長く、抜けようともがけばもがくほど深みにはまっていくとの印象しかない。ところが、この半ば忘れられた政党が、過去2か月の間に突如復活、ついに一部世論調査でCDU/CSUを抜くまでになった(8月24日付の世論調査会社Forsa。23%対22%で首位)。
これには、SPD内ですら「信じられない」との声が相次ぐ。場合によっては、同党の党首代行で首相候補のオラフ・ショルツ財務相がメルケル首相の後任になるかもしれないのだ。SPDが突然変貌したのは何が原因か。
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